イヌの血液のもとになる細胞群の性質を解明
また本研究はスイス科学誌『Frontiers in Veterinary Science』にて9月12日にオンライン公開されましたので、あわせてお知らせいたします。
- 昨今の獣医療におけるイヌ血液の重要性増加とその課題
そこで本研究では、イヌ4頭の骨髄から造血幹細胞を含むHSPCsを採取し3群に分離した上で、それらの造血能力と網羅的な遺伝子発現を解析し、イヌの造血幹細胞の特徴を調査しました。
- 本研究の概要と成果
次に各群における造血能力についてコロニーフォーミングアッセイ※3を用いて比較した結果、全ての群で造血細胞を含んだコロニーが確認されました。その中でも「CD34+/CD45dim群」にて最も多くコロニーが見られたことから、「CD34+/CD45dim群」が造血幹細胞を最も多く含んでいる(最もHSPCsを濃縮している)ことが推察されました。さらにRNAシーケンス ※4による網羅的な遺伝子発現解析により、「CD34+/CD45dim群」には血液のもととならない免疫細胞の混入が少ないこと、ヒトやマウスで報告されている既知の遺伝子が多数発現して
いることも判明しました。
A:確認された造血コロニーの顕微鏡写真。左から顆粒球コロニー、マクロファージコロニー、赤血球コロニー。
B:細胞1,000個当たりの造血コロニーの数。縦のバーがコロニーの個数を示し、それぞれの色は造血コロニーの種類によって色分けされています。造血コロニーの総数は「CD34+/CD45dim群」で最も多かったことから、さまざまな血液細胞になることができる造血幹細胞を最も多く含んでいると推察されました。
- 造血研究の発展に向けた第一歩。将来的には供血犬の負担軽減の可能性も
こうした成果を、イヌ造血幹細胞の利用を含めた獣医療分野の造血研究に応用していくことで、イヌのがん治療法のさらなる発展や安全性確保につなげられる可能性があります。また造血研究が進むことで、将来的には供血犬の負担軽減や供血犬自体の削減にも寄与できる可能性があることから、獣医療分野における動物福祉の向上にも貢献できるものと考えています。
今後も当社では、さまざまな研究を通じて、獣医療の発展と動物福祉の向上を目指してまいります。
■論文概要
タイトル:Characterization of Canine CD34+/CD45 diminished Cells by Colony-forming Unit Assay and Transcriptome Analysis
著者:Taro Ayabe, Masaharu Hisasue*, Yoko Yamada, Suguru Nitta, Kaoruko Kikuchi, Sakurako Neo, Yuki Matsumoto, Ryo Horie, Kosuke Kawamoto
掲載誌:Frontiers in Veterinary Science
DOI: 10.3389/fvets.2022.936623
https://doi.org/10.3389/fvets.2022.936623
■用語解説
※1 セルソーター:細胞集団から目印のついた特定の細胞を生きたまま分取することが可能な装置。
※2 細胞表面マーカー:体を構成する細胞1つ1つに存在する目印となるタンパク質や糖鎖等のこと。主要な表面マーカーに対して結合する抗体を用いることで、混在する細胞の種類の識別に利用可能 。
※3 コロニーフォーミングアッセイ:細胞を半ゲル状の培地に播くことで、幹細胞やがん細胞であった場合に1つの細胞からでも増殖して集団(=コロニー)を形成する能力があるかどうかを確認する試験。本研究では造血能力の確認のために、様々な血液細胞になるための因子を含んだ培地を使用している。
※4 RNAシーケンス:生物の遺伝情報を担う核酸の1つであるRNAが、どれくらい発現しているかを網羅的に解析する手法。核酸の塩基配列を大量に読み込むことができる次世代シーケンサーによって得られたデータからサンプル間における遺伝子発現の差を解析することで、それぞれに特徴的に発現する遺伝子を調べることが可能。
参照元:PR TIMES
執筆:equall編集部