日本では、動物愛護に関する法規制が強化される中でもペットの販売業者の数が増加しています。コロナ前からの保護犬、保護猫のブームによってペットショップは減少していると考えている方も多いと思います。今回は、ペットショップの現在について紹介します。
目次
ペットショップは増えているのか
ペットショップと一括りにされていますが、ペットを販売する店舗とブリーダーがあり、これらは販売の許可が必要となります。公表されている動物取り扱い業者の届け出状況をみると、平成23年の24,299件をピークに減少しています。一方で過去10年間では増加傾向にあります。
この増加の背景には、ペット需要の高まりが考えられます。コロナ以降、犬や猫を新たに飼育を希望する人々が増え、ペットショップの需要が拡大しています。
ペットの飼育頭数に関してはこちらの記事に詳しく解説しています。
動物取扱業者の推移
販売業の推移
年度 | 販売業 | 販売のうち犬猫等販売業 |
犬猫等販売業のうち繁殖を行う者
|
平成18年 | 15,071 | ||
平成19年 | 20,195 | ||
平成20年 | 21,872 | ||
平成21年 | 22,875 | ||
平成22年 | 23,866 | ||
平成23年 | 24,299 | ||
平成24年 | 23,086 | ||
平成25年 | 21,715 | ||
平成26年 | 20,846 | 15,890 | 11,983 |
平成27年 | 20,944 | 16,171 | 12,392 |
平成28年 | 21,104 | 16,510 | 12,603 |
平成29年 | 20,871 | 16,004 | 12,448 |
平成30年 | 20,660 | 15,911 | 12,235 |
平成31年 | 21,069 | 16,335 | 12,730 |
令和2年 | 21,727 | 16,679 | 12,949 |
令和3年 | 22,258 | 16,845 | 13,046 |
令和4年 | 22,165 | 16,887 | 13,101 |
令和5年 | 22,057 | 16,812 | 13,267 |
全事業の推移
年度 | 総事業所数 | 販売業 | 保管業 | 貸出し業 | 訓練業 | 展示業 | 競りあっせん業 | 譲受飼養業 |
平成18年 | 19,893 | 15,071 | 10,631 | 877 | 1,620 | 1,267 | – | – |
平成19年 | 31,292 | 20,195 | 14,986 | 677 | 2,460 | 1,652 | – | – |
平成20年 | 34,224 | 21,872 | 16,490 | 765 | 2,820 | 1,900 | – | – |
平成21年 | 36,101 | 22,875 | 17,493 | 853 | 3,058 | 2,001 | – | – |
平成22年 | 38,460 | 23,866 | 18,868 | 856 | 3,325 | 2,150 | – | – |
平成23年 | 39,897 | 24,299 | 20,162 | 975 | 3,544 | 2,281 | – | – |
平成24年 | 39,702 | 23,086 | 21,048 | 911 | 3,646 | 2,344 | – | – |
平成25年 | 39,568 | 21,715 | 21,592 | 999 | 3,746 | 2,379 | 9 | 20 |
平成26年 | 39,874 | 20,846 | 22,575 | 999 | 3,950 | 2,527 | 23 | 44 |
平成27年 | 40,921 | 20,944 | 23,834 | 1,071 | 4,185 | 2,750 | 22 | 64 |
平成28年 | 42,367 | 21,104 | 25,103 | 1,127 | 4,377 | 2,999 | 22 | 91 |
平成29年 | 42,942 | 20,871 | 25,799 | 1,286 | 4,433 | 3,363 | 26 | 118 |
平成30年 | 43,749 | 20,660 | 26,404 | 1,234 | 4,542 | 3,573 | 24 | 138 |
平成31年 | 44,828 | 21,069 | 27,420 | 1,325 | 4,706 | 3,807 | 26 | 177 |
令和2年 | 46,929 | 21,727 | 28,686 | 1,396 | 4,894 | 4,073 | 28 | 178 |
令和3年 | 48,395 | 22,258 | 29,525 | 1,488 | 5,093 | 4,140 | 34 | 205 |
令和4年 | 48,557 | 22,165 | 30,076 | 1,502 | 5,060 | 4,051 | 31 | 225 |
令和5年 | 48,914 | 22,057 | 30,496 | 1,545 | 5,072 | 4,121 | 29 | 241 |
参照元:環境省「動物取扱業者登録・届出状況」
動物取扱業者
第一種動物取扱業を営む者は、事業所・業種ごとに都道府県知事または政令指定都市の長の登録を受けなければなりません。また、動物の管理の方法や飼養施設の規模や構造などの基準を守ることが義務づけられています。
第一種動物取扱業者は命あるものである動物を扱うプロとして、より適正な取扱いが求められます。
動物取扱業者の種類
販売:動物の小売及び卸売並びにそれらを目的とした繁殖または輸出入を行う業 (その取次ぎまたは代理を含む)
- 小売業者
- 卸売業者
- 販売目的の繁殖または輸入を行う者
保管:保管を目的に顧客の動物を預かる業
- ペットホテル業者
- 美容業者(動物を預かる場合)
- ペットのシッター
貸出し:愛玩、撮影、繁殖その他の目的で動物を貸し出す業
- ペットレンタル業者
- 映画等のタレント・撮影モデル・繁殖用等の動物派遣業者
訓練:顧客の動物を預かり訓練を行う業
- 動物の訓練・調教業者
- 出張訓練業者
展示:動物を見せる業(動物とのふれあいの提供を含む)
- 動物園
- 水族館
- 移動動物園
- 動物サーカス
- 動物ふれあいパーク
- 乗馬施設
- アニマルセラピー業者(「ふれあい」を目的とする場合)
競りあっせん業:動物の売買をしようとする者のあっせんを会場を設けて競りの方法により行う業
- 動物オークション(会場を設けて行う場合)
譲受飼養業:有償で動物を譲り受けて飼養を行う業
- 老犬老猫ホーム
規制を受ける業種
業として、動物*の販売、保管、貸出し、訓練、展示、競りあっせん、譲受飼養を営利目的で行う場合は、営業を始めるに当たって登録をしなくてはなりません。代理販売やペットシッター、出張訓練などのように、動物の所有や飼養施設がない場合も、規制の対象になります。
* 実験動物・産業動物を除く、哺乳類、鳥類、爬虫類が対象です。
また、第一種動物取扱業者のうち、犬又は猫の販売や販売のための繁殖を行う者については、「犬猫等販売業者」として犬猫等健康安全計画の策定とその遵守、獣医師との連携の確保など追加の義務が課せられます。
守るべき基準
守るべき基準の概要は以下の通りです。自治体によっては、地域の事情に応じて、独自の措置が追加されている場合があります。
- 個々の動物に適切な広さや空間の確保
- 給水・給餌器具や遊具など必要な設備の配備
- 1日1回以上の清掃の実施
- 動物の逸走防止
- 幼齢動物の販売等の制限
- 動物の状態の事前確認
- 購入者に対する現物確認・対面説明
- 適切な飼養または保管
- 広告の表示規制
- 関係法令に違反した取引の制限
- 標識や名札(識別票)の掲示
- 動物取扱責任者*の配置
※動物取扱責任者とは:専属の常勤職員のうち、業務を適正に営むために十分な技術的能力及び専門的な知識経験を有する者として、一定の要件を満たした者です。
- 犬猫等健康安全計画の策定と遵守
- 獣医師との連携の確保
- 販売困難な犬猫についての終生飼養の確保
- 56日齢以下の販売制限
参照元:環境省「第一種動物取扱業者の規制」
法改正の効果
動物愛護法の改正により、飼養管理基準の厳格化や販売方法の制限が進められています。2021年6月からは、生後8週間以内の犬猫の引き渡しや展示が規制され、2022年6月からは、ブリーダーやペットショップで販売される犬猫へのマイクロチップ登録制度が開始されました。
これらの規制強化は、動物福祉の向上や消費者保護を目的としています。ペット事業者は、規制に対応するためのコスト増加や経営への負担が指摘され、事業者が減少すると考えられていました。
海外の取り組み
海外ではペットショップでの生体販売を禁止する動きが進んでいます。例えば、フランスでは2024年から犬猫の店頭販売が禁止されました。
アメリカでは、大都市をはじめとした自治体でペットショップ販売規制を実施しています。メキシコ州アルバカーキ市では、殺処分数が犬猫が減少したとされています。カリフォルニア州は、全米で初めて州がペットショップの販売規制を導入しました。
イギリスでは、生後6か月未満の犬や猫の販売を禁止やマイクロチップの装着を義務づけています。
日本でも2023年にマイクロチップは義務化され、動物愛護団体や活動家によるペットショップ廃止運動が実施され、今後の法改正や業界の動向に注目が集まっています。
限定的な購入先
ペットの購入先をみると、犬と猫では明確な違いがあります。
犬は、ほとんどの方がペットショップやブリーダーで購入しています。猫は無償入手が1番多くなっています。アンケート調査では、ペットを有料で購入したというのを公にしたくない方が一定数後いると推測されるため、犬と猫はの購入経路には大きな差があるでしょう。
この背景には、保護動物はほとんどが猫であり、犬を譲渡会で見かける機会も減少しています。環境省が公開している殺処分数の数値からも明らかであり、猫においては、地域猫活動と呼ばれる活動も広がりを見せています。
ペットショップでも健全な販売を行なっている店舗もあるのかもしれませんが、課題も存在します。
売れ残った動物の処遇や、繁殖用の動物の飼育環境に関する問題が指摘されています。売れ残ったペットの対応はブラックボックス化しており、これらの課題に対しては、業界全体での取り組みや、消費者の意識向上が求められています。
ペットショップは無くなった方が良いのか
ペットショップはなくなった方が良いという声を聞くことも多々あります。
本当にペットショップは無くなった方が良いのでしょうか。ペットショップが無くなり、国内の犬や猫の数が少なくなると、ペット業界が縮小し、ペットフードや動物医療の発展に影響が出たり、売上が見込めなくなるとペットイベントも減ります。
正しくは、ペットショップが無くなった方が良いではなく、悪質なペットショップやブリーダーは廃業した方が良いではないでしょうか。
ペットショップやブリーダーが健全かどうかも曖昧にするのではなく、命を扱うものであるため、偽造できない仕組みでの数値管理や売れ残った動物に対する責任を果たすべきです。
まとめ
総規制強化の中でもペットショップの数が増加している現状は、ペット需要の高まりを背景に購入先が限定的であることが挙げられます。
つまりペットショップが儲かる構造になっているため、事業者が増加しているといえるでしょう。動物福祉や消費者保護の観点から、今後も適切な規制と業界の自主的な取り組みが期待されます。
執筆:equall編集部
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