超高齢化や核家族化が進み、人と人との繋がりが希薄になる日本社会において、ペットは今や「精神的な支柱」となり、失うことへの不安(ペットロス)も増大しています。
今回は、日本ヒルズ・コルゲート株式会社に所属する獣医師の知見を踏まえて「昭和・平成・令和における犬猫の変化」についてご紹介します。
目次
昭和は「短命が当たり前」 令和は平均寿命14歳超へ

犬・猫の平均寿命は昭和から令和にかけて大きく伸びています。一部研究では昭和期の平均寿命は3~4歳と推計されていたのに対し、令和(2023年度)は犬14.1歳・猫14.5歳と報告され、昭和期と比べて約10歳程度の延伸が見られます。
【昭和】屋外飼育が一般的で、予防医療も十分ではなかった
昭和期は屋外飼育が一般的で、ワクチン接種や寄生虫予防も現在ほど普及しておらず、病気やケガによる死亡リスク、幼齢期の死亡リスクが相対的に高い環境にありました。
【平成】室内飼育・フード改良・医療体制の整備で長寿化が進んだ転換期
平成期に入ると、室内飼育の普及やペットフードの改良に加え、獣医師数の増加や動物病院の整備などにより医療提供体制が拡充し、ワクチン接種や定期健診といった予防医療が広がりました。2008年頃の調査では、犬13.2歳・猫13.9歳に達したとされます。
【令和】“生涯の約半分がシニア期”に。日常ケアが長期化する時代
令和では、予防医療や定期健診の定着に加え、シニア期を前提とした食事・体重管理、療法食の普及などにより、慢性疾患と付き合いながら長く暮らすためのケアが一般化してきた一方で、がんや腎臓病などシニア期に多い健康課題もより身近になっています。
「ねこまんま」から「総合栄養食」、そして“ケアとしての食事”へ
日本のドッグ・キャットフードは、昭和から令和にかけて「空腹を満たすための食事」から「健康寿命を支えるためのケア」へと役割を大きく変えてきました。
【昭和】人の食事の延長「ねこまんま」が一般的
昭和の時代、犬や猫の食事は家庭の残り物を与える「ねこまんま」が一般的で、ペット専用フードや栄養設計の考え方は十分に普及していませんでした。
【平成】栄養バランスを重視する「総合栄養食」への転換
平成期には、犬・猫に必要な栄養を科学的に設計した「総合栄養食」が普及。水分量による分類(ドライ/ソフトドライ/セミモイスト/ウェット)など、選択肢も広がり、「何を食べさせるか」が飼い主にとって重要な選択肢になっていきました。
【令和】健康志向が細分化し、年齢・体質・疾患に応じて選ぶ時代へ
令和では、毎日の食事を通じて健康を支える考え方が浸透し、高品質な原材料や希少性の高い食材を使用したフード、サプリメントなど関連商品も拡大。フードへの支出額も増加傾向にあるとされています。
家族観の変化から見る名づけ
ペットの名前は、昭和の「記号的な名前」から、平成の「個性を映す名前」、そして令和の「人間と変わらない名前」へと変遷してきました。そこには、ペットが家族の一員として受け入れられてきた社会的変化がうかがえます。
昭和
犬の名前 1位「コロ」、2位「チビ」、3位「タロー」
平成
犬(オス):「チョコ」「マロン」「ソラ」
犬(メス):「モモ」「チョコ」「ハナ」
猫(オス):「レオ」「ソラ」「コタロウ」
猫(メス)「モモ」「ハナ」「サクラ」
令和
犬(オス):「レオ」「ムギ」「ソラ」
犬(メス):「ココ」「ムギ」「モカ」
猫(オス):「レオ」「ソラ」「ムギ」
猫(メス):「ルナ」「ココ」「ムギ」
響きを重視した“人の名前のような”傾向が強まっています。
日本ヒルズ・コルゲート株式会社所属獣医師小﨑先生にお話を伺いました
名前:小﨑 真
勤務先: 日本ヒルズ・コルゲート株式会社
Q.室内で人と一緒に暮らすことが当たり前になりましたが、室内に潜む意外な健康リスクがあれば教えてください。
室内飼育は交通事故や感染症などの外的な危険から遠ざかる一方で、家の中特有の「見えないリスク」も潜んでいます。
♦「わずか数百グラム」の重みとフローリングによる関節への負担
肥満は関節の痛みや糖尿病など、さまざまな病気を引き起こす「病気の入り口」です。 体の小さな犬や猫にとって、たった数百グラムの体重増加でも大きな負担になります。例えば、体重2kgの子が2.4kg(400gの増量)になるのは、体重55kgのヒトが66kgになるのと同じ負担です。
ご自身が毎日、ウォーターサーバーのボトルを担ぎながらツルツルのフローリングで生活すると想像してみてください。その足腰への負担は計り知れません。
♦物足らなさそうな「腹八分目」がもたらす豊かな時間
快適な室内環境は代謝を下げ、運動不足を招きがちです。ねだられるままに食事を与えるのではなく、少し控えめな「腹八分目」の管理を徹底することが、多くの研究で病気のリスクを減らし、結果として健康寿命のサポートをすることが証明されています。つい与えたくなってしまう気持ちをグッと堪え、適切な量で健康を保つことが、何よりの愛情表現です。
♦届く場所に潜む「中毒」の危険
人間には無害でも、犬猫には猛毒となる観葉植物(モンステラやポインセチアなど)や芳香剤、人間用の食品(チョコレートやネギ類など)が室内の至る所にあります。「室内だから安全」と過信せず、犬猫の目線で環境を整えることが、生涯にわたる絆を守る第一歩です。
Q.愛犬・愛猫の体調変化について、飼い主が早期に気づきやすいサインがあれば教えてください。
私たちは「栄養学を獣医学の基盤」と考えています。そのため、体調の変化はまず「食事の食べ方」と、摂取した後の「排泄の様子」に顕著に現れます。
♦「完食の習慣」が病気の早期発見に
普段から好き嫌いが多いと、病気による食欲不振なのか、単なるわがままなのかの区別がつきません。幼少期からおやつやいろいろな味のフードを与えすぎず、決められたフードを完食する「食べムラのない状態」を作っておくことが、実は最強の健康管理です。一口残しただけで「おかしい」と気づける環境が、早期発見の精度を劇的に高めます。
♦おしっこの「量」と「時間」は健康の鏡
犬や猫の排尿トラブルは、命に関わるサインを多く含みます。
・おしっこの量と飲水量の変化(多飲多尿): おしっこの量が増え、水を飲む量も増えるのは、腎臓病や糖尿病などのサインです。飲水量の目安は1日あたり「体重1kgにつき50〜60mL」(例:4kgの子なら200〜240mL)です。この目安(50〜60mL)を大きく超える場合、あるいは100mL(目安の約2倍)に達するような場合は、明確な異常(多飲)と判断されるため注意が必要です。
※ただし、ウェットフードをメインで食べている場合は食事で水分摂取できているため、飲水量が少なくなります。
・トイレの時間: 通常は1〜2分、長くても3〜5分です。5分以上こもる場合は便秘や排尿困難、痛みを、逆に極端に短い(砂もかかずに数秒〜十数秒で慌てて飛び出す、排泄の工程を明らかに省略しているなど)場合はトイレ環境へのストレス(膀胱炎の一因)を示唆しています。特に猫の場合はトイレを気に入っていないことによる小さなストレスの蓄積が、「特発性膀胱炎(血尿や頻尿)」を引き起こす一因になることも、多くの研究で報告されています。
♦便は健康のバロメーター
便は、食べたものが「正しく消化・吸収されたか」を教えてくれる、体からの通信簿です。ヒルズでは便の状態をスコア化して評価しますが、ご家庭でも「色・形・硬さ」を毎日チェックしてください。理想は1日1~2回の排便で、便の表面がベタベタしていない状態です。排便回数が急に増えたり、急に便が細くなったり、粘液や血液が混じったりするのは、腸内環境(マイクロバイオーム)の乱れや、消化器疾患を示唆する重要なサインです。
Q.どのような症状や状況の時、動物病院を受診すべきか(受診の目安)を教えてください。
「いつもと違う」と感じた時が一番の目安ですが、特に「排出」と「摂取」の停止は、命に関わるサインとして即座に判断する必要があります。
♦「摂取」の異常(24時間の法則)
丸1日(24時間)以上、水もフードも口にしない場合は、速やかに受診してください。特に猫の場合、絶食状態が続くと、エネルギー不足を補うために体脂肪が急激に肝臓へ運ばれ、蓄積してしまう「肝リピドーシス(脂肪肝)」という深刻な病気になるリスクがあります。
肝臓が脂肪で埋め尽くされて機能不全に陥ると、回復が非常に困難になります。特に、ふっくらした体型の猫ほど、体に蓄えられた脂肪が多いためにこのリスクが高くなるという意外な側面があります。「少し太っているから1日くらい食べなくても大丈夫」という油断は禁物です。「明日まで様子を見よう」という判断が、取り返しのつかない遅れになることもあります。
♦「排出」の異常(緊急事態)
激しい嘔吐や下痢(短時間に複数回繰り返す、血が混じるなど)はもちろんですが、「おしっこが出ていない」のは一刻を争う事態です。
何度もトイレに行くのに出ていない、あるいは痛そうに鳴く場合は、尿道閉塞などの可能性があります。おしっこが止まると、わずか数時間で体内に毒素が回り(尿毒症)、心停止を招くほど高カリウム血症が進行する危険があるため、夜間であっても即座に救急病院を検討すべき状況です。
♦「隠れる」は強い痛みの証
犬や猫は本能的に、外敵から身を守るために自分の弱みを隠します。普段なら甘えてくる子が、押し入れや家具の裏に隠れて出てこない、あるいは四肢を畳んでうずくまったまま動かないという時は、外見からは見えない「強い痛み」を懸念してください。
特に猫が喉を鳴らす(ゴロゴロいう)のは、リラックスしている時だけでなく、激しい痛みや苦しみを自分自身で紛らわそうとしている場合もあります。「寝ているだけ」に見える静かな変化こそ、専門家による早期の診断が必要です。
動物病院は、病気を治すだけでなく「健康な体をつくる食事」を相談する場所でもあります。少しでも不安があれば、プロである獣医師を頼ってください。
Q.医療が進歩して選択肢が増えた今、どこまで治療するかを迷う場面も多いと思います。飼い主が持っておくべき治療・ケアの判断基準(心構え)について、アドバイスをお願いします。
高度な医療が受けられる現代だからこそ、私たちは「すべてのペットは生涯を通じて愛され、大切にされるべきである」という理念を大切にしています。治療の選択は、単に「病気を叩くこと」だけではなく、その子が家族と過ごす「生活の質」をどう守るかという視点が重要になります。
♦「おいしく食べてもらう」工夫も立派な治療
病気になった際、特別療法食による食事の管理は治療において非常に重要な役割を果たします。しかし、一般のフードに比べると、フレーバーや添加物が少ないこともあり、好みが分かれることもあります。そんな時は「食べてくれないから無理だ」と諦める前に、嗅覚を刺激する工夫をしてみてください。例えば、かつお節の出汁パックをフードの袋に入れて「香りづけ(匂い移り)」をさせるだけでも、食欲が刺激されるケースは多く見られます。自らの口で美味しく食べられることは、生きる意欲や病気と闘う免疫力を支える大きな力になります。
♦「絆」を最優先にするという判断
治療の目的は「検査数値を正常にすること」だけではなく、その子がご家族の隣で「幸せ」を感じる時間を守ることにあるはずです。もし治療そのものが、大好きな家族との触れ合いを奪うほどの大きなストレスになっているのであれば、立ち止まる勇気も必要です。今のケアによって、その子が「幸せ」と感じる瞬間がどれだけ維持できているか。それを判断の大きな柱に据えてみてください。
♦後悔しないための「対話」と「準備」
日々の食事管理を含めたケアについて、納得いくまでかかりつけの獣医師と話し合ってください。最善の治療とは、医学的な正解だけでなく、ペットオーナーさんとペットの「かけがえのない絆」が維持できるものであるべきだと私たちは考えています。元気なうちから「この子にとっての幸せとは何か」をご家族で話し合っておくことも、いざという時の大切な心構えになります。
正解は一つではありません。ペットオーナーさんご自身が笑顔で寄り添えることが、ペットにとって一番の幸せです。その子にとっての最善を、私たち獣医師と一緒に見つけていきましょう。
Q.若いうち、元気なうちから取り組んだ方がよい健康習慣があれば教えてください。
健康的な未来は、日々の「正しい食習慣」と「確かな知識」という土台の上に築かれます。
♦猫は若いうちから「ウェットフード」を
特に猫の場合、若いうちから缶詰やパウチなどのウェットフードを食べる習慣をつけておくことは非常に重要です。猫は元々、砂漠や高山地方の出身で、水分摂取量が少なくても生きていける体のつくりをしています。そのため、将来的に腎臓病や下部尿路疾患などのリスクが高い動物です。シニア期になり、治療として水分補給を兼ねた食事療法が必要になった際、ウェットフードを食べ慣れていないとスムーズな導入が難しくなります。若いうちからウェットフードの食感や匂いに慣れさせておくことは、将来の「治療の選択肢」を広げることにつながります。
♦「総合栄養食と水」が完璧な理由
最近、SNSなどで「生肉」や「手作り食」を推奨する情報を目にすることが増えましたが、これだけで犬猫に必要な約40種類の栄養素を完璧なバランスで網羅するのは、専門家でも至難の業です。特定の栄養が不足したり、逆に過剰になったりすることで、成長不全や骨の異常、内臓疾患を招くリスクが科学的に証明されています。厳しい基準をクリアした「総合栄養食」と新鮮な水があれば、彼らに必要な栄養はすべて満たされます。手作り食では難しい『毎食、全く同じ栄養バランスを安定して提供できること』が、総合栄養食の最大の利点です。根拠のない情報に惑わされず、科学的に設計された食事を基盤に据えてください。
♦「健康時のデータ」が命を救う
若いうちから定期的な健康診断を受ける最大のメリットは、病気の早期発見はもちろん、ペットの「健康な時の基準値」を知っておけることです。検査数値には個体差があるため、元気な時のデータ(平熱、体重、血液数値など)があれば、いざ体調を崩した際、獣医師が「その子にとっての異常」を即座に正しく判断できるようになります。健康診断は単なるチェックではなく、獣医師との連携をスムーズにし、生涯の絆を守るための大切な「答え合わせ」なのです。
最後に、飼い主の皆さまへ伝えたいメッセージがあればご記入ください。
私たちヒルズの使命は、「人とペットのかけがえのない絆を、生涯にわたって豊かにすること」です。
ペットの時間は人間よりも早く過ぎていきますが、その一生の基盤を造るのは、毎日の「ごはん」という習慣です。私たちが提供しているのは単なるフードではなく、皆さんと愛犬・愛猫が1日でも長く、元気に笑い合って過ごすための「かけがえのない時間」そのものだと思っています。
私たちのビジョンである「栄養学を獣医学の基盤とする」という考え方は、特別なことではありません。それは、毎日の食事という一番身近なケアを通じて健やかな体を育み、もし病気になっても立ち向かえる体を作っておくという、究極の健康管理です。
そして忘れないでください。「すべてのペットは、生涯を通じて愛され、大切にされるべきである」という私たちの理念の通り、彼らにとって世界で唯一の、そして最高の守護者は飼い主であるあなた自身です。
皆さんが愛情を込めて選ぶその一食一食が、大切な家族の未来を確かに支えています。私たちはこれからも、最先端の栄養学という確かな科学の力で、皆さんが愛犬・愛猫と歩むその尊い道のりを、生涯にわたって全力で応援し続けてまいります。
ペットの健康管理もアップデートの時代
昭和から令和へ、玄関先の犬小屋からリビングへ、そしてベッドの中へと、私たちと同じ空間で暮らすようになりました。生活環境が同期した今、ペットは人間と同じようなストレスや生活習慣病のリスクにもさらされています。
私たち人間が早期の健康ケアを当たり前に取り入れるようになった今、家族であるペットの健康管理も、治療から早期の健康ケアへのアップデートが求められています。
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