猫は自分の名前を聞き分けている? 研究が示す「呼びかけ」への意外な反応と接し方のコツ

「○○ちゃん!」と名前を呼んでも、こちらをちらりと見るだけで動かない。あるいは、まったく無反応でまどろみ続ける――。猫と暮らしていると、こんな経験をした方は多いのではないでしょうか。「うちの子は名前を分かっていないのかも」と少し寂しく感じたことがあるかもしれません。

結論から言うと、猫は自分の名前をきちんと「聞き分けている」可能性が高い、と複数の研究が示しています。来ないのは、名前を理解していないからではなく、「分かったうえで動かないことを選んでいる」だけかもしれないのです。

この記事では、上智大学などの研究チームが行った2本の査読付き論文をもとに、猫が自分の名前、さらには一緒に暮らす猫の名前まで聞き分けているという興味深い研究結果を、できるだけ正確に、そしてやさしく解説します。あわせて、愛猫に名前を覚えてもらうための日々の接し方の工夫もご紹介します。

猫は本当に自分の名前を分かっているの?

犬が名前を呼ばれて駆け寄ってくる姿は、多くの方がイメージできると思います。一方で猫は、呼んでも来ないことが多く、「名前を覚えているのかどうか分からない」と感じられがちです。

そんな素朴な疑問に科学的に挑んだのが、齋藤慈子(さいとう あつこ)氏らの研究チームです。2019年に科学誌『Scientific Reports』に発表された論文では、飼い猫が「自分の名前」を他の言葉と区別して聞き分けていることが示されました。これは、猫が人間の声をどう聞き分けているかを実験的に調べた、世界で初めての研究とされています。

さらに2022年には、同じ研究グループが「猫は一緒に暮らす別の猫の名前まで覚えているらしい」という、さらに驚きの結果を報告しています。順番に見ていきましょう。

「猫は名前を聞き分ける」を示した研究

どんな方法で調べたの?

この研究で使われたのは、「馴化(じゅんか)・脱馴化(だつじゅんか)法」と呼ばれる手法です。少し難しそうな名前ですが、考え方はシンプルです。

動物に同じような刺激を繰り返し与えると、だんだん反応が薄れていきます(これが「馴化」)。ところが、そこで明らかに違うものを提示すると、再び反応が強まります(これが「脱馴化」)。この反応の変化を見ることで、動物がその違いを「区別できているか」を確かめられるのです。

研究チームは、飼い主や別の人の声で、まず一般的な名詞(猫の名前と長さやリズムが似た言葉)を4つ続けて聞かせ、最後に5つ目としてその猫の名前を再生しました。同様に、一緒に暮らす別の猫の名前を聞かせてから自分の名前を流す、という条件も設けています。そして、猫の耳・頭・しっぽの動きや鳴き声、体の向きといった反応を細かく観察・記録しました。

結果:自分の名前にはっきり反応した

その結果、猫たちは繰り返される一般名詞や他の猫の名前には反応が薄れていく一方で、自分の名前が流れると再び反応が強まりました。つまり、自分の名前を他の言葉から区別して聞き分けていたのです。

興味深いのは、一般家庭の猫と「猫カフェ」の猫で、結果に違いが見られた点です。家庭の猫は自分の名前を、一般名詞からも他の同居猫の名前からも区別できていました。一方、猫カフェの猫は自分の名前を一般名詞とは区別できたものの、他の猫の名前との区別ははっきりしませんでした。研究チームは、猫カフェでは多くの猫の名前が日常的に飛び交うため、それぞれの名前に特別な意味が結びつきにくいのではないか、と考察しています。

【研究のポイント】
猫は自分の名前を「ただの音の並び」ではなく、他の言葉と区別すべき特別な音として認識している可能性が高いことが示されました。「名前を呼んでも来ない=分かっていない」とは限らないのです。

ただし「自分の名前だと理解している」とは言い切れない

ここで大切な注意点があります。この研究が示したのは、あくまで「猫が自分の名前を他の言葉と区別している」という事実までです。猫が、私たち人間のように「これは”自分”を指す呼び名だ」と理解しているかどうかまでは、この実験からは分かりません。

研究チーム自身も、猫は名前そのものを「自分のラベル」として理解しているというより、名前という音が、ごはんやなでてもらえること、あるいは病院など、自分にとって何か意味のある出来事と結びついて学習された結果として反応している可能性を指摘しています。名前を呼ばれると良いことが起こる、という経験の積み重ねが、反応を生み出していると考えられるのです。

同居猫の名前まで覚えている?

「期待を裏切られると、つい見てしまう」を利用した実験

2022年に同じく『Scientific Reports』に発表された高木佐保(たかぎ さほ)氏らの研究は、さらに一歩踏み込みます。「猫は、一緒に暮らす”別の猫”の名前と顔を結びつけて覚えているのか?」を調べたのです。

使われたのは「期待違反法」という手法です。私たちも、予想と違うことが起きると思わず二度見してしまいますよね。それと同じで、動物も「あれ?」と感じると、その対象を長く見つめる傾向があります。

実験では、まずスピーカーから飼い主の声で同居猫の名前を再生し(名前フェーズ)、その直後にパソコンの画面に猫の顔を表示しました(顔フェーズ)。半数の試行では名前と顔が一致し(例:「タマ」と呼んでタマの顔)、もう半数では名前と顔が食い違うようにしました(例:「タマ」と呼んで別の猫の顔)。

結果:家庭の猫は「名前と顔の食い違い」に反応した

その結果、一般家庭の猫は、名前と顔が食い違う「不一致」の場面で、画面をより長く見つめる傾向を示しました。これは、名前を聞いた時点で「その名前の猫の顔」をある程度予想していて、違う顔が出たことに気づいたためと解釈できます。つまり、同居している猫の名前と顔を結びつけて覚えている可能性が示されたのです。

さらに、一緒に暮らす猫の頭数が多いほど、また同居期間が長いほど、この傾向が強まることも示唆されました。一方、メンバーの入れ替わりが多い猫カフェの猫では、こうした傾向ははっきり見られませんでした。日々の暮らしの中で名前と相手を結びつけて学習している、という見立てを支える結果です。

【研究のポイント】
猫は特別な訓練を受けなくても、毎日の暮らしの中で「飼い主が口にする名前」と「その相手」を自然に結びつけて学んでいる可能性があります。あなたが家族や他の猫の名前を呼ぶのを、愛猫は意外なほどよく聞いているのかもしれません。

研究からわかる「呼びかけ」のヒント

これらの研究は、私たちの日々の接し方にもいくつかのヒントをくれます。ポイントを整理してみましょう。

  • 猫が名前を覚えるカギは「日常的に名前が使われていること」。研究でも、名前が普段からよく呼ばれている猫ほど反応が安定していました。
  • 名前と「良い出来事」を結びつけることが大切。名前を呼んでからごはんをあげる、なでる、遊ぶ、といった積み重ねが、名前への前向きな反応を育てます。
  • 名前を叱るときに使いすぎない。「名前=怒られる合図」になると、呼んでも逃げる・無視するようになりかねません。

【ポイント】
猫が呼んでも来ないのは、必ずしも「無視」や「愛情不足」ではありません。猫は分かったうえでマイペースに振る舞う動物です。来ないこと自体を責めず、来てくれたときにしっかり応える方が、長い目で見て良い関係につながります。

名前を覚えてもらうための具体的な工夫

これから子猫を迎える方や、保護猫に新しい名前をつけた方に向けて、研究の知見をふまえた実践的な工夫をまとめます。

  1. 呼び名を一つに決める。「○○ちゃん」「○○くん」「ニックネーム」と呼び方がバラバラだと、猫は混乱しやすくなります。家族で呼び方をそろえましょう。
  2. 良いことの直前に名前を呼ぶ。ごはん・おやつ・遊びの前に名前を呼ぶと、名前にポジティブな意味が結びつきやすくなります。
  3. 近づいてくれたら必ず応える。来てくれたときに優しく声をかけたり、なでたりすることで「名前に応じると良いことがある」という経験を増やします。
  4. 短く、はっきり、優しいトーンで。長い言葉より、短く呼びやすい名前のほうが猫にとっても認識しやすいと考えられます。

研究を読むときに知っておきたい注意点

とても魅力的な研究結果ですが、受け取る際にはいくつか気をつけたい点もあります。

まず、これらの研究は比較的少数の猫を対象に行われたものであり、すべての猫に同じことが当てはまると断言できるわけではありません。また、猫の反応は体調や周囲の環境、その日の気分にも左右されます。実験室や慣れない状況では、ふだんの反応が出にくいこともあります。

そして繰り返しになりますが、「名前を聞き分ける」ことと「自分の名前だと理解している」ことはイコールではありません。研究が示した範囲を超えて「猫は人間と同じように自分の名前を認識していると証明された」と捉えるのは行き過ぎです。あくまで「区別している様子が観察された」という事実を、楽しみながら受け止めるのがちょうど良い距離感だと言えるでしょう。

なお、ふだんは名前に反応していた猫が急に呼びかけへの反応が鈍くなった、音に反応しなくなった、という場合は、加齢による聴力の低下や体調の変化が隠れていることもあります。気になる様子が続くときは、自己判断せず、かかりつけの獣医師に相談すると安心です。

まとめ

  • 研究によれば、飼い猫は「自分の名前」を他の言葉や同居猫の名前と区別して聞き分けている可能性が高い。
  • さらに、一緒に暮らす別の猫の名前と顔を結びつけて覚えている様子も報告されている。
  • ただし「名前を聞き分ける」ことと「自分の呼び名だと理解する」ことは別問題で、過度な解釈は禁物。
  • 名前を覚えてもらうコツは、呼び名を統一し、良い出来事と結びつけ、叱る場面で使いすぎないこと。
  • 呼んでも来ないのは「無視」ではなく猫らしいマイペースさ。来てくれたときに応えることが良い関係につながる。

「呼んでも来ない」その背中の向こうで、愛猫は実はあなたの声をちゃんと聞き分けているのかもしれません。そう思うと、名前を呼ぶ時間が少しいとおしく感じられないでしょうか。今日からぜひ、優しいトーンで名前を呼び、来てくれたときにはたっぷり応えてあげてください。それが、猫との信頼を少しずつ深めていく確かな一歩になります。

 

参考文献:Saito, A., Shinozuka, K., Ito, Y., & Hasegawa, T., 2019. Domestic cats (Felis catus) discriminate their names from other words. Scientific Reports, 9, 5394./Takagi, S., Saito, A., Arahori, M., Chijiiwa, H., Koyasu, H., Nagasawa, M., Kikusui, T., Fujita, K., & Kuroshima, H., 2022. Cats learn the names of their friend cats in their daily lives. Scientific Reports, 12, 6155.

執筆:equall編集部

 








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