ペットツーリズムの現在地

「犬連れ旅行は、しつけができていれば安心」そう思う一方で、実際に計画しようとすると不安が先に立つ。そんな飼い主さんは少なくありません。

コロナ禍を経て、家族の一員である愛犬と旅行を楽しむ「ペットツーリズム」は急速に拡大しています。しかし市場が伸びるほど、マナー問題や受け入れ環境の差、安全性への議論も目立つようになりました。

本記事では、論文『健全なペット・ツーリズムの発展を目指して~犬飼育者への定性・定量調査に基づく提言~』をもとに、ペットツーリズムの課題と展望、そして愛犬との旅行を「心から楽しめる状態」に近づける条件を整理します。

  • ペットツーリズムが伸びている理由と、同時に増えている課題
  • 「旅行に行きたいのに行けない」飼い主が多い理由
  • 旅行を楽しめる人・楽しめない人の決定的な差
  • 論文が示した「しつけ意識」と「旅行意向」の相関
  • 旅行前に最低限やっておきたい3つの実践トレーニング

ペットツーリズムとは?市場の拡大と“マナー問題”の同時進行

ペットツーリズムとは、ペット同伴で行う旅行・観光の総称です。単に「連れて行く」ではなく、宿泊・食事・体験を“犬と一緒に楽しむ”スタイルが一般化しつつあります。

論文では、犬の飼育頭数の動きや、宿泊業界のドッグフレンドリー化などを背景に、市場が活況を呈している点が示されています。一方で、受け入れ環境の整備不足や、飼い主側のマナー不安が、普及のブレーキにもなっています。

つまり、ペットツーリズムは「伸びている」のに、「誰もが安心して楽しめる状態」にはまだ届いていない。ここが本研究の出発点です。

データが示す「行きたいのに行けない」飼い主の多さ

論文では、全国の犬飼育者600名を対象とした定量調査が行われています。結果として、「今後は犬連れ旅行を増やしたい」と考える人が一定数いる一方で、直近の旅行経験がない層も多いことが示されました。

ここから見えるのは、需要があるのに行動に移せない“ギャップ”です。なぜ、このギャップが生まれるのでしょうか。

旅行をためらう3つのハードル

調査結果から整理される不安は、大きく次の3つです。

  • 周囲への迷惑への不安:吠え・トイレ・物損など
  • 愛犬への負担への不安:環境変化・移動ストレス
  • 自分たちの行動制限:行ける場所が限られる、常に気を張る

特に旅行経験が浅い層ほど、「しつけ」に関する不安が強いことが示され、旅行の心理的障壁になっている点が重要なポイントです。

旅行を楽しめる人と楽しめない人の決定的な違い

論文のインタビュー調査では、旅行に積極的な層と消極的な層の対比が描かれています。ここが実務的に非常に示唆的です。

積極派(楽しめている人)の特徴

  • 情報収集が能動的:SNSだけでなく公式サイトや規約も確認する
  • 目的が明確:「犬と雪山」「ドッグランが充実」など、体験を設計できている
  • しつけの実践がある:普段からトレーニングしており、現地での不安が小さい
  • 成功体験が蓄積:満足度が上がり、次も行きたくなる

消極派(不安が強い人)の特徴

  • 情報収集が受動的:「なんとなくSNS」「口コミ中心」で規約確認が不足しやすい
  • 目的が曖昧:「預けるのが不安だから連れて行く」など“消去法”になりやすい
  • トレーニング不足:トラブルを想像して行動できず、計画段階で止まる
  • 緊張が続く:旅行中も「迷惑をかけないか」が主題になり楽しめない

ここから言えるのは、犬OKの施設を見つけるだけでは不十分で、飼い主側の準備(しつけ・計画・ルール理解)が旅行体験を左右するという点です。

しつけ意識が「旅行意向」を押し上げる

本研究の重要な発見は、統計分析(重回帰分析)によって、「しつけの重要性認識」が「今後の旅行意向」にプラスの影響を与えることが示された点です。

特に飼育歴が浅い層ほど、この傾向が強いとされます。つまり、旅行を増やす鍵は「施設の数」だけではなく、飼い主が“できる状態”に近づくことでもある、という示唆です。

一方で論文は、意識と行動の乖離も指摘します。「旅行にしつけが必要」と理解していても、「旅行を意識したトレーニング」を実際にしている人は多くない。ここが伸びしろでもあります。

軽井沢に学ぶ「マナーを観光資源にする」発想

論文では、地域全体でマナー啓発に取り組む先進事例として軽井沢の施策が紹介されています。

軽井沢ピクトグラム

犬の同伴ルール(入店OK、抱きかかえならOKなど)を統一アイコンで可視化し、店舗と飼い主の認識ズレを減らす取り組みです。

Good Manners Card(グッドマナーファミリーキャンペーン)

ルール違反を罰するのではなく、マナーの良い飼い主に「感謝状(カード)」を渡す“褒めて伸ばす”仕組みで、地域の空気感を整えていく発想が特徴です。

受け入れ側の整備は、施設単体ではなく「地域の文化」まで含めて設計する必要がある。これが論文から読み取れるポイントです。

旅行前に最低限やっておきたい3つのトレーニング

論文では「しつけ実践の重要性」は示されますが、具体的手順は多く語られていません。旅行前に効果が出やすい3つに絞って補足します。

1. クレート(ハウス)トレーニング

移動中や宿泊先で、愛犬が安心して休める「自分の場所」を作ることが土台です。クレートで落ち着けると、移動ストレスとトラブルが一気に減ります。

2. カフェマットでの待機

旅先ではカフェやレストランの利用が増えます。「マットの上=休憩場所」を学習させると、足元で静かに過ごせる時間が増え、飼い主の緊張も減ります。

3. トイレのコマンド化

環境が変わると排泄を我慢する犬もいます。「ワンツー」などの合図で排泄できるようにしておくと、移動の合間や宿泊先での失敗を減らせます。

犬連れ旅行は「準備」と「マナー」で、もっと楽しくなる

本論文のレビューから見えてきたのは、ハード(施設・交通)の整備と同じくらい、ソフト(飼い主の準備・しつけ・マナー)が重要だという事実です。

  • 市場は拡大しているが、「しつけ不安」が旅行行動の大きな壁になっている
  • しつけ意識は旅行意向を押し上げる(特に初心者層で顕著)
  • 旅行を楽しむ人は、目的が明確で、情報収集と準備が能動的
  • 軽井沢のように、地域全体でマナーを育てる仕組みが鍵になる

愛犬との旅行は、ただの移動ではありません。新しい体験を一緒に共有できる、絆を深める時間です。まずは近場の外出から準備を積み、成功体験を少しずつ増やしていきましょう。

 

参考文献:健全なペット・ツーリズムの発展を目指して~犬飼育者への定性・定量調査に基づく提言~

執筆:equallLIFE編集部

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