犬のしっぽは右と左で意味が違う?研究でわかった“振る方向”と感情

愛犬がしっぽを振っていると、つい「喜んでいるんだな」と思いますよね。たしかに、うれしいときにしっぽを振る犬は多いものです。しかし研究では、しっぽの動きは単なる「ごきげんサイン」ではなく、相手や状況によって細かく変わる可能性が示されています。

今回は、犬のしっぽの左右差を調べた研究をもとに、「しっぽを振る方向に意味はあるのか」を考えます。結論を先に言うと、実験では、飼い主など近づきたい相手を見たときに右寄りのしっぽ振りが増え、警戒や回避に関わる相手では左寄りの動きが見られました。ただし、家庭で目視だけで左右を判定するのは難しく、読むべきなのはしっぽだけではありません。

  • 犬のしっぽ振りには、相手や状況による左右差が表れることがあります
  • 右寄り・左寄りの動きは、犬の脳の左右差や近づきたい気持ち、距離を取りたい気持ちと関係する可能性があります
  • 家庭では左右だけに頼らず、耳、姿勢、口元、重心、距離の取り方を合わせて見ることが大切です

しっぽを振っていても「必ずうれしい」とは限りません

犬のしっぽは、感情を外に出すわかりやすい部分です。帰宅した飼い主に向かって大きく振る、散歩前に弾むように振る、ほかの犬を前にして低い位置で小刻みに動かすなど、同じ「振る」でも印象はかなり違います。

論文が示している大事なポイントは、しっぽを振っているかどうかだけでなく、「どちら側に強く振れているか」「何を見ているときか」「体全体は近づこうとしているか、引こうとしているか」を合わせて見る必要があるということです。

つまり、しっぽ振りは愛犬の気持ちを知る入口にはなりますが、単独で気持ちを決めつけるサインではありません。とくに緊張している犬、初対面の犬、苦手な刺激を前にした犬では、しっぽが動いていても距離を取る配慮が必要です。

研究では何を調べたのでしょうか

中心となる研究は、Angelo Quarantaさん、Marcello Siniscalchiさん、Giorgio Vallortigaraさんが2007年にCurrent Biologyに発表した「Asymmetric tail-wagging responses by dogs to different emotive stimuli」です。研究チームは、30匹の家庭犬を対象に、犬が特定の刺激を見たときのしっぽの左右差をビデオで解析しました。

犬に見せた刺激には、飼い主、知らない人、猫、見慣れない優位な犬、刺激がない状態が含まれていました。結果として、飼い主を見たときには右側への振れが強く、見慣れない優位な犬や刺激がない状態では左側への振れが強くなる傾向が報告されました。

右寄りのしっぽ振り

2007年の研究では、飼い主を見たときに、犬のしっぽは右側へより大きく振れる傾向がありました。研究チームは、この右寄りの動きが、近づきたい、関わりたいという接近的な反応と関係する可能性を考えています。

ここで注意したいのは、「右に振ったら必ずうれしい」と断定できるわけではない点です。実験はカメラで角度を測って解析したもので、日常の目視で同じ精度を出すことは簡単ではありません。また、犬種、尾の長さ、姿勢、興奮の強さによって見え方も変わります。

左寄りのしっぽ振り

同じ研究では、見慣れない優位な犬を見たときに、左側への振れが強くなる傾向が示されました。これは、相手に近づくよりも警戒したり、距離を取ったりする反応と関係する可能性があります。

犬の体の右側の動きは脳の左半球、体の左側の動きは脳の右半球と関わると考えられています。研究チームは、感情や行動の方向づけに関わる脳の左右差が、しっぽの動きの左右差として表れているのではないかと考察しています。

ほかの犬も左右差を読み取っている可能性があります

しっぽの左右差は、振っている犬の中だけで完結するものなのでしょうか。2013年にMarcello Siniscalchiさん、Rita Lusitoさん、Giorgio Vallortigaraさん、Angelo QuarantaさんがCurrent Biologyに発表した研究では、犬がほかの犬の左右非対称なしっぽ振りを見たときの反応が調べられました。

この研究では、犬に、右寄りまたは左寄りにしっぽを振る犬の映像やシルエットを見せ、心拍や不安に関わる行動を測定しました。その結果、左寄りのしっぽ振りを見たときのほうが、右寄りのしっぽ振りを見たときよりも心拍が高くなり、不安に関わる行動スコアも高くなることが報告されました。

これは、犬がしっぽの左右差を視覚情報として使っている可能性を示しています。ただし、研究者自身も、これを「犬が意図的に左右を使って会話している」とまで断定しているわけではありません。脳の左右差から生じた動きが、結果としてほかの犬に手がかりを与えている、という見方が現実的です。

慣れてくると、しっぽの動きも変わるかもしれません

2022年には、Wei Renさん、Pengfei Weiさん、Shan Yuさん、Yong Q. ZhangさんらがiScienceに、犬と人のやりとり中のしっぽの動きを3Dモーション解析で調べた研究を発表しています。この研究では、ビーグル犬のしっぽの先の動きを高精度に追跡し、時間の経過とともに左右差がどう変わるかを調べました。

研究では、実験者との短いやりとりを数日続ける中で、しっぽ振りが左寄り、または左右差の少ない状態から、右寄りへ移っていく傾向が報告されました。研究チームは、この変化を、犬が人に慣れていく過程と関係する可能性があると考えています。

対象は限られたビーグル犬で、家庭犬のすべてにそのまま当てはめることはできません。それでも、しっぽは一瞬の感情だけでなく、相手への慣れや安心感の変化を映す、時間に敏感なサインかもしれないという点は、暮らしの観察にも役立ちます。

家庭で見るなら「左右」より先に全身を見ましょう

研究を知ると、愛犬のしっぽが右か左かを見たくなります。ただ、実際の家庭では、犬が動き回る、尾の形が犬種で違う、巻き尾や短い尾では方向が読みづらいなど、左右差を正確に見るのは簡単ではありません。

安心していそうなサイン

  • 体がやわらかい:肩や背中に力が入りすぎず、動きがなめらかです
  • 口元がゆるい:口角や舌の出方が自然で、呼吸が荒すぎません
  • 近づき方が穏やか:相手に向かってまっすぐ突進せず、途中で止まったり匂いを確認したりできます
  • 離れる選択がある:犬が自分で距離を取れる環境では、緊張が強まりにくくなります

注意したいサイン

  • 体が固い:しっぽだけ動いていても、背中や脚がこわばっている場合は緊張が含まれます
  • 低い位置で小刻みに振る:不安、葛藤、様子見のサインとして出ることがあります
  • 耳を引く、白目が見える:相手から離れたい気持ちが混じっているかもしれません
  • 唸る、吠える、歯を見せる:しっぽが動いていても、近づかず距離を確保します

犬同士のあいさつでは、しっぽだけで判断しない

散歩中にほかの犬と会ったとき、「しっぽを振っているから大丈夫」と判断して近づけるのは避けたいところです。しっぽは重要なサインですが、相手の犬の表情、体の向き、リードの張り、飼い主の制御、逃げ道の有無も関わります。

特に、犬が正面からじっと見つめる、体を高く見せる、ゆっくり固まる、低く唸る、口を閉じて動きが止まるといった場合は、しっぽが動いていても緊張が高い可能性があります。無理にあいさつさせず、弧を描くように距離を取り、愛犬が落ち着ける場所へ移動しましょう。

しっぽを追う、噛む、極端に怖がる、散歩中に強く吠える、ほかの犬や人に攻撃的になるなどの行動が続く場合は、しつけだけで解決しようとせず、獣医師や獣医行動学に詳しい専門家に相談してください。痛み、皮膚の違和感、不安、過去の経験などが関わっていることもあります。

まとめ

  • 2007年のCurrent Biologyの研究では、犬のしっぽ振りに相手や状況による左右差が見られました
  • 飼い主など接近的な刺激では右寄り、警戒や回避に関わる刺激では左寄りの動きが報告されています
  • 2013年の研究では、犬がほかの犬の左右非対称なしっぽ振りを見て、心拍や不安行動に違いを示す可能性が示されました
  • 家庭では左右差を目視で決めつけず、耳、姿勢、口元、重心、距離の取り方を合わせて見ることが大切です
  • 緊張や攻撃、不安が続く場合は、獣医師や行動の専門家に早めに相談しましょう

愛犬のしっぽは、うれしさだけでなく、迷い、警戒、安心、慣れの変化まで映す小さな窓かもしれません。左右の話を豆知識として楽しみながらも、目の前の愛犬が今どんな距離感を望んでいるのか、全身のサインに寄り添って見ていきたいですね。


参考文献:Angelo Quaranta, Marcello Siniscalchi, Giorgio Vallortigara, 2007, “Asymmetric tail-wagging responses by dogs to different emotive stimuli”, Current Biology, Volume 17, Issue 6, Pages R199-R201; Marcello Siniscalchi, Rita Lusito, Giorgio Vallortigara, Angelo Quaranta, 2013, “Seeing left- or right-asymmetric tail wagging produces different emotional responses in dogs”, Current Biology, Volume 23, Issue 22, Pages 2279-2282; Wei Ren, Pengfei Wei, Shan Yu, Yong Q. Zhang, 2022, “Left-right asymmetry and attractor-like dynamics of dog’s tail wagging during dog-human interactions”, iScience, Volume 25, Issue 8, Article 104747; K. A. Artelle, L. K. Dumoulin, T. E. Reimchen, 2011, “Behavioural responses of dogs to asymmetrical tail wagging of a robotic dog replica”, Laterality, Volume 16, Issue 2, Pages 129-135

執筆:equallLIFE編集部

 


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