ペット殺処分ゼロへの道筋 経済学が導き出す意外な解決策とは

近年、日本のペット殺処分数は減少傾向にありますが、2020年度のデータでは依然として2万頭以上の犬や猫が行政によって殺処分されています。多くの自治体やボランティアが里親探しに奔走する中、なぜ殺処分はなくならないのでしょうか。

今回は、論文「ペット殺処分の経済分析-試論的考察」をもとに、感情論ではなく経済学の視点からこの社会問題に切り込みます。行政による引き取りシステムの構造的な欠陥と、その解決策として提案されている「引き取り有料化」について解説します。

本記事は、論文の主張を整理しつつ、equallLIFE編集部の視点で、これから私たちがどう向き合うべきかを提案します。

なぜ殺処分はなくならないのか

殺処分が続く最大の原因は、行政によるペットの引き取り費用が安すぎる、あるいは無料であることにあると論文では指摘されています。

経済学の基本原理として、サービスを利用するコストが極端に低ければ、その需要は過剰になります。現状、飼育放棄されたペットを行政が引き取る際の料金は無料か数千円程度です。しかし、実際にその命を救い、新しい飼い主が見つかるまで飼育し続けるには、莫大なコスト(社会的限界費用)がかかります。

この費用のズレが、安易な飼育放棄や、無責任な繁殖を助長する要因となっているのです。行政がコストを肩代わりしている状態、いわば外部不経済が発生していることが、殺処分という悲劇を生む構造的な原因であると分析されています。

是正すべき2つのポイント

1. 行政引き取りの有料化

殺処分をなくすための具体的な解決策として、論文では行政によるペット引き取りの有料化を推奨しています。これは単なる手数料の値上げではなく、終生飼養にかかる本当のコストを飼い主に負担させるという考え方です。

具体的には、犬であれば約22万円、猫であれば約25万円という金額が試算されています。これは、平均寿命まで飼育した場合にかかる餌代や医療費をもとに算出された限界費用です。高額に見えますが、命を預かる責任の重さを金額化した適正価格と言えるでしょう。

2. 市場メカニズムの活用

引き取りを有料化することで、安易な飼育放棄への抑止力が働きます。また、行政の料金がアンカー価格(基準価格)となることで、民間の動物愛護団体や引き取り業者のサービスも適正化されます。

悪質な引き取り屋を排除し、真面目に活動する保護団体が持続可能な運営を行えるような土壌を作ることが重要です。

懸念される副作用と3つの対策

引き取りを有料化した場合、最も懸念されるのが不法投棄(捨て犬・捨て猫)の増加です。お金を払うくらいなら捨ててしまおうと考える無責任な飼い主への対策として、以下の3つの制度導入が不可欠です。

1. マイクロチップ装着の完全義務化

販売される犬猫へのマイクロチップ装着を義務化し、飼い主情報を確実に紐付けます。これにより、遺棄された場合でも飼い主を特定できるようになり、遺棄に対する抑止力となります。

2. デポジット制度の導入

ペット購入時に、あらかじめ将来の引き取り費用(デポジット)を上乗せして販売する仕組みです。最後まで飼育すれば返金される、あるいは飼育費用に充当される形にすれば、購入時のハードルを上げつつ、遺棄する動機を消すことができます。

3. 飼育困難時への保険制度

飼い主の病気や経済状況の変化など、やむを得ない事情で飼えなくなった場合に備え、引き取り費用をカバーする保険制度を整備します。これにより、万が一の際も適正な手続きで行政や保護団体に託すことが可能になります。

考察

本論文は、動物愛護を感情論だけで語らず、インセンティブとコストという冷徹な経済理論を用いて分析している点で非常に画期的です。命に値段をつけることには抵抗があるかもしれません。しかし、無料や低額での引き取りが、結果として多くの命を奪うシステムを温存させているという指摘は、直視すべき事実です。

一方で、この経済モデルを実現するためには、国民の合意形成という高いハードルがあります。特にデポジット制度による生体販売価格の上昇は、ペット業界からの反発も予想されます。しかし、ドイツのように殺処分ゼロを実現している国では、飼い主の責任とコスト負担が明確です。

日本も、かわいそうという感情だけでなく、制度設計から変えていく時期に来ているのではないでしょうか。

まとめ

今回の記事では、論文をもとに、ペット殺処分問題の経済的な側面を解説しました。

要点は以下の通りです。

  • 行政の引き取り費用が安すぎることが、過剰な殺処分を生んでいる
  • 終生飼養コストに見合った引き取り料金(約20〜25万円)を設定すべきである
  • 有料化に伴う遺棄を防ぐため、マイクロチップやデポジット制度が必要である
  • 市場原理を正しく機能させることが、結果として動物の命を守ることにつながる

殺処分ゼロは、行政やボランティアの努力だけでは達成できません。私たち飼い主一人ひとりが、命を飼うことの経済的な責任まで理解し、社会全体のシステムを変えていく意識を持つことが、解決への第一歩となるはずです。

 

参考文献:ペット殺処分の経済分析-試論的考察

執筆:equallLIFE編集部

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