多頭飼育崩壊は「動物」ではなく「人」の問題?社会福祉連携の必要性とアニマルホーダーの実態

犬や猫の多頭飼育崩壊がニュースで報じられるたび、多くの人が「なぜここまで放置したのか」と憤りを感じます。しかし、論文『社会福祉と連携した犬猫の多頭飼育問題へのアプローチ』を読み解くと、この問題の背景には、飼い主自身の社会的孤立や精神的な課題が深く関わっていることが見えてきます。

本記事では、「アニマルホーダー」の心理や、環境省が推進する「社会福祉との連携」について解説します。

多頭飼育崩壊の背景にある「アニマルホーダー」とは

多頭飼育崩壊を引き起こす飼い主の多くは、「アニマルホーダー(Animal Hoarder)」と呼ばれる状態にあると指摘されています。

アニマルホーダーの定義

環境省の報告書や海外の定義によると、アニマルホーダーには以下の特徴があります。

  • 多数の動物を飼育している
  • 動物に最低限の栄養、衛生、健康を提供できていない
  • 動物の状況悪化(過剰繁殖や病気)に対応できていない
  • 環境の悪化(悪臭やゴミの堆積)に対応できていない
  • 本人や同居人の健康、生活環境の悪化に対応できていない

精神疾患との関連性

この状態は、単に「動物が好きすぎて増やしてしまった」という単純なものではありません。アニマルホーダーは、精神疾患の一つである「ため込み症(Hoarding Disorder)」の一種とされることがあります。

物を捨てられず生活に支障が出るのと同様に、動物を手放すことが困難で、客観的に見て崩壊している状況でも「自分が助けている」と固執してしまうケースが見られます。論文では、2007年や2012年に発生した大規模な事例(それぞれ257頭、161頭)において、飼い主自身も電気や水道が止まった劣悪な環境で生活していたことが報告されています。

全国調査で判明した飼い主の「7つのリスク要因」

環境省は多頭飼育問題の実態を把握するため、全国125の自治体を対象にアンケート調査を実施しました。この調査の分析により、多頭飼育者に共通する「7つの要素」が明らかになりました。これを知ることは、周囲が危険信号を察知するために非常に重要です。

多頭飼育者が抱える7つの要素

  1. 不衛生
    動物の糞尿やゴミが放置され、強い悪臭や害虫が発生している。飼い主自身も入浴していないなど、セルフ・ネグレクトの状態にある。
  2. 自立困難
    認知能力や身体能力の低下により、一人での生活が困難。動物の個体識別や管理ができていない。
  3. 貧困
    経済的困窮により、避妊去勢手術代やエサ代が払えない。家賃滞納やライフラインの停止が見られることもある。
  4. 暴力
    近隣住民への暴言や、行政職員に対する攻撃的な態度。特定の話題(動物の譲渡など)になると急変することもある。
  5. 固執
    動物の所有権放棄や不妊去勢手術に強い抵抗を示す。「自分がいないとこの子たちはダメになる」と思い込んでいる場合がある。
  6. サービス拒否
    自身が病気でも受診しなかったり、介護や福祉サービスの介入を拒絶したりする傾向が強い。
  7. 依存
    アルコールやギャンブルへの依存、または特定の動物に対して異常な執着を見せることがある。

分析からわかること

これらの要素のうち、「不衛生」「自立困難」「貧困」は社会福祉の支援が必要な状態です。一方で「固執」「依存」は精神的な疾患が疑われ、「暴力」「サービス拒否」は社会的孤立を招きます。つまり、多頭飼育者は「困った人」である以前に、「支援を必要としている孤立した人」である可能性が高いのです。

「One Health One Welfare」という解決策

これまでの行政対応は、「動物の問題は動物愛護センター」「人の生活困窮は福祉課」という縦割り行政が壁となっていました。しかし、飼い主の生活を立て直さなければ、一度動物を保護しても、またすぐに別の動物を集めてしまう「再発」のリスクがあります。

多職種連携の重要性

論文では、多頭飼育問題を解決するために「One Health One Welfare(人と動物の健康と福祉は一つ)」という概念の重要性を説いています。

  • 動物への対応:獣医師、動物愛護センター、ボランティア団体
  • 人への対応:社会福祉協議会、民生委員、精神保健福祉士、高齢者支援センター
  • 地域への対応:自治会、警察、清掃局

これらが連携し、動物の保護と同時に、飼い主への福祉的介入(生活保護の申請、介護サービスの導入、精神科受診のサポートなど)を行う必要があります。

環境省ガイドラインの策定

こうした背景から、環境省は2021年に「人、動物、地域に向き合う多頭飼育対策ガイドライン」を策定しました。このガイドラインは、大規模なブリーダー崩壊だけでなく、一般市民の孤立による多頭飼育を主な対象としており、福祉部局との連携フローが具体的に示されています。

早期発見と通報

多頭飼育崩壊は、ある日突然起こるのではなく、徐々に悪化していくものです。論文では、対応が遅れるほど動物は増え、衛生状態が悪化し、近隣トラブルも深刻化する「悪循環」に陥ると警告しています。

早期探知のポイント

近隣住民や地域コミュニティが以下のような異変に気づくことが、解決の第一歩となります。

  • 家から異臭がする、鳴き声が異常に多い
  • 飼い主の姿を見かけなくなった、または服が汚れている
  • 郵便受けが溢れている、ゴミ出しがされていない

もしこのような状況を見かけたら、単なる「苦情」としてではなく、「生活に困っている人がいるかもしれない」という視点で、自治体の福祉窓口や動物愛護センターに相談してください。早期の介入こそが、人と動物の両方を救う鍵となります。

まとめ

論文から、多頭飼育問題の本質を解説しました。

  • 多頭飼育崩壊は、飼い主の「社会的孤立」「貧困」「精神疾患」が密接に関わる社会問題である
  • 飼い主には「不衛生」「固執」「サービス拒否」などの特徴が見られ、セルフ・ネグレクトの状態にあることが多い
  • 解決には動物の保護だけでなく、飼い主の生活再建を支える「社会福祉との連携」が不可欠である
  • 近隣住民による早期の気づきと、行政へのつなぎが最悪の事態を防ぐ

動物を守ることは、その飼い主である「人」を守ることでもあります。多頭飼育問題を「迷惑な隣人の話」で終わらせず、地域全体の福祉課題として捉え直す視点が、今私たちに求められています。

 

参考文献:社会福祉と連携した犬猫の多頭飼育問題へのアプローチ

執筆:equallLIFE編集部

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