近年、ニュースで耳にすることが増えた「多頭飼育崩壊」。この問題の背景には、実は飼い主である人間の「社会的孤立」や「貧困」が深く関わっていることをご存じでしょうか?
動物の問題を動物だけの問題として捉えていては、根本的な解決はできません。今、求められているのは「動物福祉」と「社会福祉」の連携です。
本記事では、論文「動物福祉と社会福祉の接点をめぐる考察」をもとに、日本の動物福祉の現状、法改正の歴史、そして社会福祉専門職に求められる役割について、equallLIFE編集部がわかりやすく解説します。
- 多頭飼育崩壊の背景にある「人間の福祉」の課題
- 日本と世界の「動物福祉」の考え方の違いと歴史
- 環境省ガイドラインが求める「多機関連携」の具体的アクション
目次
動物の問題は「人間の生活課題」である
まず、この論文の核心となる結論からお伝えします。それは、多頭飼育崩壊などの動物虐待事案は、飼い主が抱える「社会的孤立」「貧困」「高齢化」「疾患」といった人間の生活課題が原因で発生しているということです。
これまで日本の行政は、動物の問題(環境省・保健所)と人の問題(厚生労働省・福祉事務所)を縦割りで対応してきました。しかし、中士(2025)は、人間と動物の問題を切り離して対応しても解決は困難であると指摘しています。
解決のカギは、環境省が2021年に発表したガイドラインにある通り、社会福祉専門職が動物保護団体と連携し、積極的に介入することにあります。
動物福祉(アニマルウェルフェア)とは
そもそも「動物福祉」とはどのような概念なのでしょうか。
動物福祉の定義
動物福祉とは、動物が精神的・肉体的に健康であり、環境と調和している状態を指します。単に「かわいがる」だけでなく、科学的な根拠に基づいて動物の苦痛を取り除くことが求められます。
5つの自由(The Five Freedoms)
世界的な指標として、以下の「5つの自由」があります。
- 飢えと渇きからの自由
- 不快からの自由
- 苦痛・損傷・疾病からの自由
- 正常な行動を表現する自由
- 恐怖および苦悩からの自由
日本の動物福祉はなぜ「遅れている」と言われるのか
論文では、日本における法整備の歴史を振り返り、なぜ日本で動物福祉の概念が定着しにくいのかを分析しています。
欧米と日本の歴史的背景の違い
イギリス(動物福祉の先進国)
産業革命以降、家畜の劣悪な扱いへの批判から法整備が進みました。1822年には世界初の動物虐待防止法が成立。「動物には感受性がある」という前提のもと、権利擁護運動へと発展しました。
日本(外圧による法整備)
日本では戦後の食糧難の時代、犬猫が食用にされたり、野犬が問題視されたりした背景から、当初は「管理」や「公衆衛生」の側面が強くありました。
1973年の「動物の保護及び管理に関する法律」制定時も、イギリスからの「日本は犬の地獄である」といった批判(外圧)を受けて急遽作られた側面が強いと論文では指摘されています。そのため、動物福祉の理念よりも、体面や管理が先行してしまった歴史があります。
日本の「ペット」観の特徴
日本では、動物を権利の主体として見るよりも、「家族の一員」「人生のパートナー」として情緒的に捉える傾向が強いのが特徴です。そのため、法改正の議論も家畜より「犬猫」が中心になりがちであるという文化的特性があります。
環境省ガイドライン(2021)が変えたもの
2021年、環境省は「人、動物、地域に向き合う多頭飼育対策ガイドライン」を発表しました。これは日本の動物行政における大きな転換点です。
ガイドラインのポイント
このガイドラインの画期的な点は、環境省という「動物」や「環境」を所管する省庁が、「社会福祉との連携が必要である」と明言したことです。
多頭飼育崩壊の定義
単に飼育数が多いことではありません。「飼育者の能力を超え、適切な飼育ができず、動物や飼育者、地域社会に悪影響を及ぼしている状態」と定義されています。
背景にある複合的課題
- 飼い主の知識不足
- 経済的困窮
- 精神的な問題(セルフ・ネグレクト等)
- 地域社会からの孤立
これらはまさに、社会福祉が支援すべき対象です。
社会福祉専門職に求められる5つの役割
論文では、ガイドラインの内容を踏まえ、ソーシャルワーカーなどの社会福祉専門職が果たすべき役割を以下の5点に整理しています。
1. 背景の理解
目の前の「汚れた部屋」「痩せた動物」だけを見るのではなく、その背後にある飼い主の孤独や貧困、病気を見抜く力が必要です。
2. 個別支援への接続
飼い主を責めるのではなく、生活保護や就労支援、医療ケアなど、必要な社会福祉サービスにつなげます。人の生活が再建されることで、結果として動物の飼育環境も改善します。
3. 早期発見と対応
多頭飼育崩壊は、室内という密室で進行するため発見が遅れがちです。日頃から地域住民と接する福祉専門職が、異変(異臭、鳴き声、飼い主の身なりの変化など)にいち早く気づくことが重要です。
4. 継続的な伴走支援
動物を引き取って終わりではありません。根本的な寂しさや生活能力の欠如が解決されなければ、飼い主は再び同じ状況(リピーター)に陥る可能性があります。生活再建に向けた長期的なサポートが不可欠です。
5. 信頼関係に基づく介入
「ペットを奪いに来た敵」と思われないよう、信頼関係(ラポール)を築きながら介入する技術は、まさに福祉専門職の得意分野です。
人と動物の共生社会に向けて
今回の論文解説の要点は以下の通りです。
- 多頭飼育崩壊は「動物の問題」であると同時に「人間の福祉問題」である
- 日本の動物愛護法は外圧や情緒的側面から始まり、現在「福祉」へと転換している最中である
- 解決には、行政の縦割りを越えた「社会福祉」と「動物愛護」の連携が不可欠である
- ソーシャルワーカーは、飼い主の生活支援を通じて動物を救う重要な役割を担っている
これからの社会福祉は、人間だけを見るのではなく、その人が大切にしている「動物」も含めた生活全体を支える視点が求められています。それが結果として、悲惨な動物虐待を防ぎ、誰もが孤立しない地域社会を作ることにつながるのです。
参考文献:動物福祉と社会福祉の接点をめぐる考察―動物愛護法の成立過程と環境省によるガイドラインの内容を中心に―
執筆:equallLIFE編集部






































