近年、日本では地震や台風などの災害が多発しています。ペットを家族の一員として暮らす家庭が増える中、災害時に「ペットを連れて逃げるべきか」「避難所でどう過ごすか」は、飼い主にとって命に関わる重要な問題です。
今回は、論文「人とペットの災害対策:文献検討-医療従事者が携わる意義はあるのか-」をもとに、医療の専門的な視点からペット防災の課題と対策を解説します。
目次
災害時、ペットを優先することで起きる「人間の健康リスク」
多くの飼い主は、「ペットの命を守りたい」という一心で行動します。しかし、本論文の調査によると、その愛情ゆえの行動が、飼い主自身の健康や生命を脅かすリスクにつながっていることが明らかになりました。
ここでは、論文で指摘されている主な健康リスクを整理します。
避難の遅れと二次被害
ペットを置いて逃げられない、連れて行く準備に手間取る、といった理由で避難行動が遅れるケースが多発しています。また、一度避難した後に、自宅に残したペットが心配で戻り、津波や家屋倒壊などの二次被害に巻き込まれる事例も報告されています。
車中泊によるエコノミークラス症候群
避難所がペット不可だったり、他の避難者に遠慮したりして「車中泊」を選択する飼い主が少なくありません。狭い車内で長時間同じ姿勢で過ごすことで、血栓ができやすくなる「深部静脈血栓症(エコノミークラス症候群)」のリスクが急激に高まります。
過酷な環境での体調悪化
車中泊やテント泊では、夏場の熱中症や冬場の低体温症のリスクがあります。また、寒冷地での車中泊では一酸化炭素中毒の危険性も指摘されています。ペットを守ろうとする行動が、結果的に飼い主の命を危険に晒すという皮肉な状況が生まれているのです。
「同行避難」と「同伴避難」の誤解と現実
災害対策ガイドラインでは「同行避難」が推奨されていますが、言葉の定義と現場のリアルには大きなギャップがあります。このギャップを知っておくことが、冷静な判断につながります。
同行避難とは
災害発生時に、飼い主がペットと一緒に安全な場所(避難所など)まで避難する「行動」のことです。重要なのは、避難所の中で「一緒に過ごせること(同室管理)」までは保証していないという点です。
現場のリアル
実際には、避難所に到着しても「ペットは屋外」「ペットは別室」というケースが大半です。論文内でも、避難所でペットのスペース確保が難しく、結局車中泊を選ばざるを得ない現状が指摘されています。
この「一緒にはいられないかもしれない」という前提で備えをしておくことが、精神的なパニックを防ぐ第一歩です。
なぜ「医療従事者」の介入が必要なのか
本論文の興味深い点は、これまで「動物の問題」とされがちだったペット防災を、「人間の医療課題」として捉え直していることです。
既存研究の空白地帯
研究チームが文献調査を行ったところ、獣医や社会学の視点からの研究はあるものの、人の命を救う医療従事者(医師、看護師など)の視点で書かれた論文は皆無でした。
医療者が関わるメリット
医療従事者がペット防災に関わる意義として、以下の点が挙げられています。
- 命のリスク管理:飼い主がペットのために無理な避難生活を送ることを防ぎ、エコノミークラス症候群や感染症などの予防介入が早期にできる
- アレルギーやメンタルヘルスへの配慮:動物アレルギーを持つ人や、動物が苦手な人への配慮(ゾーニングなど)を医学的根拠に基づいて調整できる。ペットを心の支えにしている被災者のメンタルケアにもつながる
- インクルーシブな防災:ペットを排除することは、結果として飼い主を避難所コミュニティから排除することにつながる。医療者が間に入ることで、双方が納得できるルール作りや環境調整がスムーズになる
今すぐできる「命を守る」ための平常時の備え
災害が起きてからできることには限りがあります。論文では、平常時からの「飼い主の行動」が、災害時の生死や避難生活の質を分けると結論づけています。
適正飼育の実践
日頃から予防接種や衛生管理を行っているか、無駄吠えをしないなどのしつけができているかは、避難所での受け入れられやすさに直結します。「ちゃんとしている飼い主」という信頼があれば、周囲の協力も得やすくなります。
「飼い主仲間」を作る
論文では、ペット仲間やソーシャルサポート(周囲の支援)が多い人ほど、災害対策が進んでいるという結果が紹介されています。ご近所の飼い主同士で情報を共有したり、いざという時に助け合える関係を作っておくことが、最強の防災です。
クレートトレーニング
避難所や車移動では、クレート(キャリーケース)に入ることが必須です。普段からクレートを「安心できる場所」として慣れさせておくことが、ペットのストレス軽減にもつながります。
ペット防災は「人間の命」を守る活動
今回の論文解説から見えてきたのは、ペットの防災対策は、単なる動物愛護ではなく「人間の命を守るための医療活動そのもの」であるという事実です。
要点まとめ
- ペットを理由にした「避難の遅れ」や「車中泊」は、飼い主の命を危険に晒す
- 避難所では必ずしもペットと同室で過ごせるわけではないと知っておく
- 医療従事者が介入することで、飼い主と非飼育者の双方が安全に過ごせる環境が整う
- 日頃のしつけとコミュニティ作りが、災害時の選択肢を増やす
「ペットは家族」だからこそ、その家族を守るために、あなた自身が健康で安全にいなければなりません。今日からできる備えを、ぜひ始めてみてください。
参考文献:人とペットの災害対策:文献検討-医療従事者が携わる意義はあるのか-
執筆:equallLIFE編集部









































