日本が「失われた30年」を過ごす間、台湾は著しい経済発展を遂げ、一人当たりGDPにおいて日本を上回る水準に達しました。社会の豊かさは弱者救済への意識を高めると言われますが、それは「動物」への眼差しにも変化をもたらしています。
本記事では、論文『猫を中心とした台湾動物政策の現状と課題』をもとに、台湾における猫の保護政策、行政と民間の連携、そして法制度の先進性を紐解き、日本が抱える課題へのヒントを探ります。
目次
新北市「猫村」の事例
台湾の観光名所として知られる新北市の「猫村(猴硐)」は、かつて炭鉱の街として栄え、現在は多くの猫が暮らすエリアとして観光客を集めています。しかし、人気化に伴い「捨て猫」の増加という問題も発生しました。
これに対し行政は、「猫公所」という施設を建設し、不妊去勢手術や譲渡を推進。さらに、民間組織「猫友社」と連携して成猫の管理や給餌を行うなど、観光と保護を両立させる仕組みづくりが進められています。
日本とは異なる「給餌」へのアプローチ
特筆すべきは、観光客への啓発と「給餌」に対する考え方です。猫村では、行政が具体的なガイドライン(猫愛護規則)を掲示し、猫への接し方や観光マナーを明確に示しています。
- フラッシュ撮影の禁止、大声を出さない
- 住居への侵入禁止
- 人間の食べ物(チョコやイカなど)を与えない
- 猫を無理に追いかけない
- 遺棄の厳禁
日本では、野生動物や野良猫への「餌やり全面禁止」が一般的になりがちです。一方で台湾の猫村は、「適切な餌を、適切な管理下で与える」という方針を採っています。
著者は、日本の広島県宮島におけるシカの事例(給餌禁止による対立とシカの衰弱)を引き合いに出し、一方的な禁止ではなく、ボランティアと協議した上での「計画的な給餌」こそが共生への鍵であると指摘しています。
行政と民間の「理想的な役割分担」
桃園市の大規模な保護譲渡団体「新屋猫舎ボランティアグループ」の活動が紹介されています。この団体は年間約1000頭を保護し、その約7割を新しい家族へと譲渡しており、官民連携の実効性を示す象徴的な事例といえます。
「現物支給」によるスマートな支援
ここで注目すべきは、行政による支援の方法です。台湾では保護団体に対して現金ではなく、「マイクロチップの現物支給(無償)」を行っています。
この手法のメリットを次の2点に整理しています。
- 不正流用の防止:現金と異なり使途が固定されるため、管理の手間が不要になる。
- 政策意図の実現:チップ装着を徹底することで個体管理が可能となり、遺棄や虐待の防止、再発防止に直結する。
日本では財源不足などからチップ装着の義務化が「制度としてはあるが、現場での徹底が難しい」側面があります。台湾の「現物支給」という合理的かつ戦略的な支援策は、日本の行政にとっても参考になる視点です。
「所有権」の壁を超える法制度
台湾の「動物保護法(1998年成立)」は、日本の「動物愛護管理法(1973年成立)」と比較して、より強力な保護規定を持つと論文は位置づけています。
飼い主責任と行政の介入権限
日本の法律と決定的に異なる点として、飼い主が適切な飼育義務(清潔な水や環境の確保、十分な運動など)を怠った場合、行政が飼い主から動物を保護(没収)できる枠組みが示されています。
- 日本:動物は民法上の「所有物」とみなされるため、不適切な飼育環境であっても所有権の壁があり、行政による保護(没収)は極めて困難になりやすい。
- 台湾:法律で飼育義務が細かく規定され、違反があれば動物を守るために介入が可能となる。
高齢化が進む日本において飼育困難な状況に陥るケースが増えることを見据え、日本でも行政が介入できる法整備の必要性を示唆しています。
弱者への眼差しが社会を救う
台湾の動物政策がこれほど手厚い背景には、民主化以降のリベラリズムの浸透があると著者は分析しています。
「無主の犬猫といった弱いものに社会が目を向けることで、人間自身の社会のなかで弱者救済への道が大きく開かれていく」
動物福祉は単に動物だけのためのものではありません。社会的弱者に対する共感や配慮を育む土壌となり、結果として人間社会全体の利益に繋がるという視点は、現代の日本社会に深く響くメッセージと言えるでしょう。
参考文献:猫を中心とした台湾動物政策の現状と課題
執筆:equallLIFE編集部






































