野良猫の問題は、単なる「動物愛護」の話ではなく、地域コミュニティや都市計画に関わる深い課題であることをご存知でしょうか。
今回ご紹介するのは、論文『神戸市における地域猫活動者の活動実態』です。本論文は、先進的な条例を持つ神戸市をフィールドに、地域猫活動の現場の過酷な実態と、それが示唆する「現代の住環境」の問題点を浮き彫りにしています。
目次
なぜ「神戸市」が注目されるのか
まず、研究の背景として神戸市の特異性が挙げられます。神戸市は2017年に「神戸市人と猫との共生に関する条例」を施行し、行政として地域猫活動(TNR活動など)を支援しています。
その成果は数字に表れており、2011年には100%近かった猫の殺処分率(1,869匹)が、2020年には38%(95匹)へと激減しました。この数字の裏には、行政の支援だけでなく、現場で活動する市民ボランティア(地域猫活動者)の多大な努力があります。
地域猫活動者の「過酷なリアル」
論文では、NPO法人神戸猫ネットの協力を得て、活動者へのアンケートとヒアリングを行っています。そこから見えてきたのは、決して「猫が好きで餌をあげている」だけではない、過酷な現実です。
- 活動者の属性:ほとんどが50代以上の女性で、活動歴10年以上のベテランが6割を占めます。
- 金銭的負担:月々の餌代などの持ち出しは平均1〜2万円ですが、中には月4万円以上を負担する人が約3割、最大で15万円というケースもありました。
- 時間・体力の負担:毎日の餌やりには2.5〜3時間を要し、雨の日も台風の日も休むことはできません。
活動者の多くは、猫への虐待や無責任な餌やりに対する義憤、そして「目の前の命を救いたい」という思いから、身銭を切って活動を続けています。
エリア別に見る「活動の多様性」と「地域の課題」
本論文の興味深い点は、特性の異なる3つの地域(A公園、B地区、C区域)を比較調査し、それぞれの活動スタイルと直面する課題の違いを明らかにしている点です。
① A公園(住宅地の地区公園):震災の爪痕
この場所での活動の発端は、阪神淡路大震災後の「仮設住宅の撤去」でした。住民が去る際に置き去りにされた猫が急増したのです。
活動者は現在1名(70代女性)のみですが、徹底した管理と清掃、地域住民への説明により、かつてのような苦情は減っています。
しかし、心ない人間による猫への暴力や毒殺といった残忍な行為に直面するなど、精神的な負担も抱えています。
② B地区(古い市営住宅団地):高齢化と孤独
ここは築50年以上の団地です。ここで深刻なのは「高齢者による多頭飼育崩壊」や「飼育放棄」です。
入院や死亡により、部屋に取り残された猫の世話や、糞尿にまみれた部屋の清掃依頼が活動者に舞い込みます。
これは単なる猫の問題ではなく、独居老人の孤独と孤立という社会問題が、猫の問題として表出している事例と言えます。
③ C区域(駅近・商業エリア):無理解との戦い
人通りが多い駅周辺では、活動範囲が広く移動が大変なうえ、「無責任な餌やり」と勘違いした通行人から直接苦情を言われることが多々あります。
一方で、写真展を開催して活動の意義(不妊手術の実施や掃除の徹底など)を伝えることで、理解者や協力者を増やす工夫も行われています。
建築学的視点からの考察:「孤独な住環境」への処方箋
著者の田島氏は建築学の専門家であり、この調査結果から「孤独を感じる住環境(仮設住宅、団地の高齢者一人世帯)は野良猫問題を発生させやすい」という重要な結論を導き出しています。
活動者の負担を減らし、野良猫問題を根本解決するためには、TNR(捕獲・不妊手術・元の場所に戻す)だけでなく、建築・都市計画側からのアプローチが必要だと提言しています。
- 仮設住宅の計画:入居期間のみ猫をレンタルできる仕組みなど、ペット飼育への欲求を満たしつつ無責任な遺棄を防ぐ制度設計。
- 公営団地のあり方:現状は「飼育禁止」が多いため、隠れて飼育し、誰にも相談できず崩壊するケースが多い。高齢者でも安心して飼えるサポート付きの飼育システムや、共用フロアの設置など、住環境のルール自体の見直しが必要であるとしています。
まとめ
本論文は、地域猫活動が「猫のかわいさ」に支えられている一方で、その実態は地域社会の歪み(震災復興の過程、高齢者の孤立、住民間のトラブル)を一身に背負うボランティアの自己犠牲によって成り立っていることを明らかにしました。
「5〜10年後には地域猫活動自体が必要なくなる社会」を目指すためには、行政やボランティアだけでなく、住環境を設計・管理する建築・不動産分野からのアプローチが不可欠であることを、本研究は強く示唆しています。
参考文献:神戸市における地域猫活動者の活動実態
執筆:equallLIFE編集部









































