人と動物の包括的な健康と幸福を促進させる|ベックジャパン動物病院グループ 藤井 仁美

名前:藤井 仁美
勤務先:ベックジャパン動物病院グループ行動診療科専科長
資格:獣医行動診療科認定医、伴侶動物行動カウンセラー
所属学会:日本獣医動物行動学会副会長

Q. 藤井先生の現在のお仕事について教えてください

ベックジャパン動物病院グループにて、犬と猫の行動診療やストレスケアなどに携わり、動物の心身両方の健康や幸福の推進、および飼い主の幸福増進を目指しています。

Q.獣医師を目指されたきっかけを教えてください

私が小学生の頃に実家で犬を飼い始めたのがきっかけです。
とてもやんちゃな、可愛いオスのヨークシャテリアで大好きでした。
母が動物病院に連れて行く時は必ずついて行っていたのですが、そこでの診察の様子を見て「動物のお医者さんとして働きたい」と思うようになりました。
また、中学3年生の夏休みの自由研究で、好きなテーマで論文を書くという課題があったのですが、私は我が家のヨークシャテリアの写真をたくさん撮影し、「犬のボディーランゲージ」について文献を調べ、写真と照合してその意味をまとめたものを論文にしました。
今思い返せば、その時から犬の行動学にすごく興味を持っていたんですね。獣医師になる夢も、犬や猫の行動学の専門家になる夢も、その頃から持ち続けていたのだと思います。

Q.飼い主さんと接する中で、大切にしていることを教えてください

行動診療の際も子犬子猫の育て方指導の際も、まずは飼い主さんの言葉と、犬や猫の言葉の、両方に耳を傾けて注意深く聴き取るということを大切にしています。
飼い主さんが犬や猫とどのように生活しているのか、何に困っていらっしゃるのかなど、じっくりお話を伺うと同時に、実際に犬や猫はどんなサインや行動を発しているのかを飼い主さんから伺い、行動診療中の犬猫の様子もしっかり観察するようにしています。問題行動がご自宅で起きる場合は、それらを撮影した動画なども参考にしています。

飼い主さんの中には、ご自分のお気持ちや環境のことなどはよくお話しなさるけれど、犬や猫が発する具体的なサインや行動を詳しくお話しできない方や、それを観察する必要性をご存知ない方も多いのです。犬猫のサインや行動を正しく読み取れないと彼らとのコミュニケーションはうまくいきません。そしてそれが問題行動の原因のひとつになっていると感じることも度々あります。
そこで、サインや行動を読み取る方法と、その意味を飼い主さんにきちんと説明して理解していただくことも、非常に大切にしています。飼い主さんと犬猫たちが正しいコミュニケーションができるようになると、真に心を通わせることができるようになり、幸せな関係が築けると考えています。

Q.今までの経験の中で、印象に残っている思い出やエピソードがあれば教えてください

特に印象的なのは攻撃行動の診療です。
自分の犬や猫が唸る・咬みつくなどの攻撃行動をして悩んでいる飼い主さんに対する診療の初回では、犬や猫の発するサインや行動の意味を教え、おうちでしっかりと観察してきていただくことをお願いしています。この場合の飼い主さんは犬猫がストレスを感じている時のサインというのをご存じない方が多く、それを解説すると「え、このサインはそういう意味なんですか?!」と驚かれる方がほとんどです。
犬や猫がストレスを感じていることに気づかずに接してしまうために、犬や猫からしたら自分のことを理解してくれない飼い主に失望して、何とか自分の気持ちをわかってもらいたいと飼い主さんを攻撃してしまうのです。
私からの初回の提案に従って実際におうちでサインの観察をしていただき、犬や猫のストレスを理解して接し方を変えていただくと、2回目・3回目と行動診療の回を重ねるたびに、犬や猫と飼い主さんの関係が劇的に変化してどんどん良好になっていきます。それが毎回本当に印象的で、この仕事をしていてよかったなと心から思う瞬間なのです。

Q.飼い主さんが動物と生活をする上でのアドバイスをお願いします

犬や猫は飼い主さんのことが大好きで、本当は攻撃行動をはじめとした問題行動なんてしたくないのです。だけど自分たちの気持ちを分かってもらえないストレスから問題行動をするようになってしまうのです。
犬や猫のサインや行動を理解できる飼い主さんになれば、彼ら/彼女らも心から信頼してくれるようになり、お互いにベストな関係になれます。
これからもたくさんの飼い主さんと愛する犬や猫たちが一緒に幸せに生活していくために、サインや行動の観察をしていただけたら嬉しいです。

サインを観察する際に役立つことをお教えしておきます。
1.犬なら犬、猫なら猫で、それぞれ人間とは異なる習性や行動特性があるということを理解しましょう。犬は犬である、猫は猫であるということは当たり前のようで、実は理解して接することが案外難しいので、このことをしっかりと覚えておくとよいでしょう。
2.目の前のペットを理解するためには、じっくりと観察することはもちろんなのですが、今はスマートフォンや見守りカメラで簡単に写真や動画が撮影できるようになったので、活用するとよいでしょう。また観察したことを日記に残しておくと、自分の犬や猫へのよりよい接し方や生活スタイルなどもわかってきますし、犬や猫の行動変化にもすぐに気づけます。記録をつけることはとても大切です。

Q.藤井先生が推奨されている傾聴飼育について教えてください

傾聴飼育とは、「動物の発するサインを観察し、その本当の意味を理解しながら一緒に暮らしていくこと」です。
飼い主がペットのことを正しく理解することを心がければ、ペットの「おもい」に気づけるようになります。その上で、お互いの立場を思いやるように、飼い主も「おもい」を伝えながら暮らしていくと、気持ちが通じ合って深い信頼関係が築けるようになります。
ペットと飼い主が深い信頼関係を築くことができれば、ペットが日常で抱えるストレスも少なくなり、問題行動の減少にも繋がります。「傾聴飼育」は、ペットとオーナーさんの“より幸せな暮らし”を実現するために大切な考え方だと思っています。
傾聴飼育を実践する上で大切なポイントは3つあります。
1つ目は、「ペットの生態・習性・行動特性を学ぶこと」
2つ目は、「ペットの表情・姿勢・行動を観察してサインを読み取ること」
3つ目は、「ペットが発するサインの意味を考えて接すること」
傾聴飼育の実践方法やポイントがまとめられた冊子もありますので、参考にしながらぜひご自宅でも実践していただきたいです。

傾聴飼育のススメ

Q.最後に、 藤井先生が今後取り組んでいきたいことや目標をお聞かせください

近年、獣医療においても、それ以外の動物に関わる業界においても、「ワンヘルス・ワンウェルフェア」というキーワードが主流になりつつあります。この言葉は人と動物、そしてそれらを取り巻く環境を含めた全体的な健康と福祉(=幸福)を考えることを意味します。
健康とは体の健康だけでなく心の健康も含まれています。体だけどんなに健康になっても、心が健康でなければ真の幸福とは言えません。また人だけが健康で幸福ならそれでよいというわけでもありません。なぜなら一緒に暮らす動物やそれを取り巻く環境が健康で幸福な状態でなければ、人の(特に心の)健康も幸福も満たされないからです。誰だって不幸せな犬や猫と一緒に暮らしていたらつらいですよね。全ての健康と幸福はお互いの相互関係から成り立っていて、それらがバランスの取れた良好な状態であることが大切です。
獣医学と動物行動学を融合させることで動物の真の健康と幸福が守られ、それが人や周囲の環境の健康や幸福を実現させる機会にもつながると信じています。そういった包括的な健康と幸福の促進のためにお役に立てることにこれからも取り組んでいきたいと思っています。

■プロフィール
名前:藤井 仁美
勤務先:ベックジャパン動物病院グループ行動診療科専科長

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