犬のストレスは「ケージの広さ」に関係ない?

犬の飼育環境における「ケージの広さ」と「運動量」が、実際にどれほどストレスに影響するのかを検証した論文を紹介します。「狭いと可哀想」という飼い主の直感とは異なる、科学的な視点からの結論と、日本の家庭で実践できる具体的な対策を解説します。

広さとストレス値は比例しなかった

オーストラリアの研究チーム(Jongmanら, 2017)は、犬の飼育環境に関する基準を見直すため、ケージのサイズと運動量が犬の福祉にどう影響するかを調査しました。

一般的に「広いほうが快適でストレスが減るはず」と考えられがちですが、生理学的な測定(コルチゾール値の検査など)の結果、狭いケージ(3平米)と広いケージ(10平米)の間で、犬の健康状態やストレスレベルに有意な差は見つかりませんでした。

これは「狭い場所に閉じ込めても良い」という意味ではありません。「ただ広さを確保するだけでは、犬の幸福度は上がらない可能性がある」という重要な示唆を含んでいます。

3平米と10平米での比較検証

36頭の犬を対象に、広さと運動の組み合わせを変えて6週間のデータを測定しました。

実験は以下の条件で行われました。

  • 対象:健康なグレイハウンド 36頭(成犬および若齢犬)
  • 期間:6週間
  • 比較した環境:
    • A:狭いケージ(3平米)
    • B:広いケージ(10平米)
  • 比較した運動:
    • 1:運動なし
    • 2:運動あり(1日2回×10分+週3回のルアーチェイス)

これらの条件下で、以下の項目を測定しました。

  • 行動記録(ビデオによる24時間監視)
  • ストレスホルモン(唾液中のコルチゾール濃度)
  • ACTH刺激試験(副腎機能の反応テスト)
  • 怪我の有無

結果として、運動の有無やケージの大小に関わらず、生理学的なストレス数値や異常行動(常同行動など)の発生に明確な違いは出ませんでした。

なぜ広いケージの犬は「手前」にいたがるのか?

ストレス数値に差はなかったものの、行動には興味深い変化が見られました。広いケージ(10平米)に入れられた犬は、スペースの奥側が空いているにもかかわらず、通路に面した「手前側」で過ごす時間が長かったのです。

研究者たちは、この行動を以下のように推察しています。

「犬は広さを休息のために使うのではなく、他の犬や世話をする人間を見るための『社会的接触の機会』として利用しようとしている」

つまり、犬にとって重要なのは「走り回れるスペース」以上に、「仲間や飼い主の存在を感じられる視界や距離感」である可能性が高いのです。

日本の飼い主が知っておくべき「広さ」以上の重要ポイント

この論文はレース犬であるグレイハウンドを対象としていますが、日本の家庭犬(トイプードルやチワワなど)にも応用できる本質的なヒントがあります。

論文では「3平米(約1.7畳)」を狭いケージとしていますが、日本の一般的な室内用ケージはこれよりもはるかに小さい(0.5畳〜1畳程度)のが現状です。そのため、以下の点に注意が必要です。

ただ広くするより「配置」を変える

高価で巨大なケージに買い替える前に、ケージの置き場所を見直してください。

  • 悪い例:家族の気配がない静かすぎる別の部屋、廊下の奥
  • 良い例:リビングの一角など、飼い主の姿が見える場所

「手前側にいたがる」という行動は、犬が孤独を避けたい心理の表れです。物理的な面積よりも、心理的な安心感(社会的接触)を優先しましょう。

運動は「量」より「質」

実験では、単調な運動の有無はストレス値に影響しませんでした。
散歩はただ歩くだけでなく、匂いを嗅がせたり、新しいコースを歩いたりする「メンタル面での刺激」を取り入れることが、本当の意味でのストレス解消につながります。

「極端に狭いケージでも良い」と解釈するのは危険

  • 最低限の基準:犬が中で立ち上がり、自然に回転でき、手足を伸ばして横になれるサイズは必須です。
  • 個体差:元野犬や分離不安傾向のある犬の場合、広すぎると逆に不安を感じることもあります。愛犬の性格に合わせた調整が必要です。

まとめ

愛犬の幸せは、部屋の平米数ではなく、あなたとの距離感で決まります。もし「ケージが狭くて可哀想かな」と悩んでいるなら、サイズを大きくする前に、ケージをあなたのそばに移動させてみてください。

参考文献:Jongman, E.C., Butler, K.L., & Hemsworth, P.H. (2017). The effects of kennel size and exercise on the behaviour and stress physiology of individually-housed greyhounds. Applied Animal Behaviour Science.

執筆:equallLIFE編集部

 









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