帰宅したときに愛猫が靴や服のにおいをじっくり嗅いでいると、「私だとわかっているのかな」と思うことがあります。猫は声や見た目だけでなく、においからも周囲の情報を集めています。
2025年に発表された研究では、家庭で暮らす猫が、知っている人と知らない人のにおいに異なる反応を見せました。ただし、この研究だけで「猫は飼い主をにおいだけで確実に見分ける」とまでは言えません。研究で確かめられたことと、まだ分からないことを分けながら、猫がにおいを嗅ぐ時間を見ていきます。
- 猫は、知っている人より知らない人のにおいを長く嗅ぐ傾向を示しました
- においを嗅いだ直後の顔こすりは観察されましたが、愛情表現だと断定はできません
- 来客や外出後は、猫が自分のペースでにおいを確認できる距離をつくることが役立ちます
目次
猫は人のにおいに違いを感じている可能性があります
猫にとって、においは周囲の情報を集めるための大切な手がかりです。人にとっては同じように見える衣類や手でも、猫はそこに残るにおいを丁寧に調べているのかもしれません。
東京農業大学の宮入悠太さんらは、家庭猫30匹を対象に、飼い主などの知っている人、猫が知らない人、何も付いていない対照の3種類のにおいを同時に提示しました。各猫には3回の試行が行われ、研究者は動画から、どのにおいをどのくらい嗅いだかを記録しました。
結果は、猫が知らない人のにおいを平均約4.8秒嗅ぎ、知っている人のにおいは平均約2.4秒、対照は平均約1.9秒だったというものでした。知らない人のにおいをより長く調べたことは、猫が人のにおいの違いを行動上の手がかりとして使っている可能性を示します。
長く嗅いだからといって、怖がっているとは限りません
見慣れないにおいに鼻を近づける時間が長いと、猫が不安なのではと心配になるかもしれません。しかし、この実験で測ったのは主に嗅ぐ時間であり、知らない人のにおいを長く嗅いだ理由が、恐怖、好奇心、情報収集のどれなのかを一つに決めることはできません。
研究から言えるのは、「知らないにおいには、より多くの確認時間を使った猫がいた」ということです。来客の上着、外出後のバッグ、動物病院から帰ったあとのキャリーなどを愛猫が嗅ぐときも、すぐに止めるより、安全な距離から自分で確認できる余地を残すほうが自然です。
顔をこするしぐさは何を意味するのでしょうか
研究では、においを嗅いだあとに、チューブや飼い主に顔をこする行動も観察されました。猫の顔こすりは、物に自分のにおいを付ける行動としても、親和的なやりとりとしても見られます。
ただし、この実験では飼い主がにおいの入った器具を提示していました。そのため研究者は、猫が器具そのものに顔をこすったのか、そばにいる飼い主に反応したのかを切り分けられないと説明しています。「においを嗅いで顔をこすったから、飼い主への愛情が証明された」と読むのは行き過ぎです。
研究で分かったことと、分かっていないこと
この研究は、家庭で暮らす猫30匹を対象にした行動実験です。猫が知っている人と知らない人のにおいに同じようには反応しなかったことは示されました。一方で、猫がにおいだけから特定の人を頭の中で識別しているのか、においをどの程度記憶しているのか、どのような成分を手がかりにしているのかは、まだ十分に分かっていません。
また、性格、生活環境、同居する人数、来客経験などによって、においへの反応は変わる可能性があります。研究中には、においを嗅ぐ行動と飼い主との関係を示す質問票の得点に、明確な関連は見られませんでした。嗅ぐ時間の長さを、愛着の強さや性格の良し悪しとして判断しないことが大切です。
外出後や来客時にできること
猫は、初めて見る物やにおいを嗅いで周囲を確かめることがあります。人の生活の中で新しいにおいが増える場面では、猫が確認する時間を持てるようにすると、無理な接触を減らせます。
帰宅したら、追いかけずに猫から近づくのを待つ
ほかの猫や犬に触れたあと、香りの強い製品を使ったあと、長時間外出したあとは、いつもと違うにおいが服や手に残ることがあります。愛猫が近づいて嗅ぐときは、抱き上げたり顔を寄せたりせず、猫が離れる選択もできる状態で待ちます。
来客には、猫が退避できる場所を用意する
来客がある日は、猫が行き来できる静かな部屋、隠れられる場所、水とトイレを確保しておくと安心です。初対面の人に慣れさせようとして、猫の前へ連れて行く必要はありません。猫が自分から出てきて、距離を取りながらにおいを確認する流れを尊重しましょう。
急な変化が続くときは、においだけの問題にしない
急に人や物を強く避ける、触られることを嫌がる、食欲や排泄の様子が変わる、攻撃的な行動が続くといった場合は、単ににおいに敏感になったと決めつけないでください。痛みや体調、生活環境の変化が影響していることもあるため、気になる変化が続くときは獣医師に相談しましょう。
猫の「嗅ぐ時間」は、世界を確かめる時間かもしれません
猫が服やバッグを嗅ぐ姿は、飼い主を値踏みしているようにも見えます。しかし研究の結果を踏まえると、それは猫が周囲の変化を自分なりに整理している時間と考えられます。
においを嗅ぐ行動に、単純な正解はありません。短い時間で離れる猫もいれば、何度も確認する猫もいます。大切なのは、嗅ぐ秒数を採点することではなく、愛猫が落ち着いて確認し、必要なら離れられる環境を保つことです。
まとめ
- 2025年の研究では、家庭猫30匹が知らない人のにおいを、知っている人のにおいより長く嗅ぐ傾向を示しました
- この結果は、人のにおいの違いを猫が行動上の手がかりとして使う可能性を示します
- 一方で、猫がにおいだけで特定の人を確実に認識できることや、嗅ぐ時間が愛着の強さを表すことは証明されていません
- 外出後や来客時は、愛猫が自分のペースでにおいを確認し、離れられる環境をつくりましょう
- 急な行動変化や体調の変化が続くときは、獣医師に相談してください
愛猫がそっと鼻を近づける時間は、暮らしに増えた小さな変化を確かめる時間なのかもしれません。すぐに意味を決めつけず、愛猫のペースを見守っていきたいですね。
参考文献:Yutaro Miyairi, Yuichi Kimura, Koji Masuda, Hidehiko Uchiyama, 2025, “Behavioral responses of domestic cats to human odor”, PLOS ONE, Volume 20, Issue 5, e0324016, DOI: https://doi.org/10.1371/journal.pone.0324016
執筆:equallLIFE編集部








































