空前の猫ブームと言われる昨今、「ネコノミクス」という言葉が生まれる一方で、行政による猫の殺処分問題は依然として解決すべき重い課題として残っています。
今回取り上げる論文は、殺処分数の減少や譲渡促進に成功している「先進地域」の事例を分析し、「行政と市民(ボランティア・団体)がいかに協働すべきか」という視点から、これからの動物愛護行政のあり方を紐解いています。
目次
猫ブームのパラドックスと現状の課題
まず著者は、現在の猫を取り巻く状況を整理しています。2017年の調査で国内の猫飼育数が犬を上回り、ブームが続く一方で、その供給構造は大量生産・大量販売型のペットビジネスが支えています。さらに、行政による殺処分数は減少傾向にあるものの、依然として約2万匹(2020年度)に及び、その多くを飼い主不明の幼齢個体が占めています。
ここで指摘されている大きな課題は、「保護猫譲渡」が一般的な入手手段として定着していない点です。
- ペットショップ購入が依然として多く、特に若年層でその傾向が強い。
- 「シェルターからの譲渡」による入手はわずか4.2%にとどまり、ペットショップ購入(16.0%)と大きな開きがある。
先進6地域に見る「成功の鍵」
この現状を打破するため、著者は殺処分ゼロや大幅削減を達成した6つの先進地域(旭川市、札幌市、新潟市、長野県、千代田区、盛岡市)を調査・分析しています。これらの地域に共通する成功要因は、以下の3点に集約されます。
① 「隠す施設」から「見せる施設」への転換
従来の行政施設(保健所・動物管理センター)は、郊外の人目に付かない場所に追いやられがちでした。しかし、先進事例ではその立地や機能が大きく転換されています。
- 旭川市「あにまある」: 市庁舎の一角という好立地に開設。「殺処分という現実を隠さず市民に考えてもらう」という理念のもと、市民が気軽に立ち寄れる施設とし、譲渡率向上につなげました。
- 長野県「ハローアニマル」: 殺処分設備を持たず、愛護と教育に特化した施設として運営。学校不適応児童への動物介在活動など、教育拠点としての地位を確立しています。
- 新潟市「動物ふれあいセンター」: 大規模集客施設内に設置され、年間30万人超が来訪。来場者の動線上に必ず保護猫が入る工夫などで、高い譲渡率を誇ります。
② 手厚い財政支援と「TNR/TNTA」の推進
野良猫の繁殖を防ぐ取り組みとして、捕獲・不妊去勢手術・リターンを行う「TNR」や、人に馴らして譲渡する「TNTA」が重要視されています。
- 千代田区(千代田モデル): 飼い主のいない猫の不妊去勢手術費を助成するだけでなく、保護猫の預かり入院費や医療費まで手厚く助成(最大25万円/匹)することで、ボランティアの負担を軽減し、殺処分ゼロを継続しています。
- 旭川市: 「動物愛護基金」を設置し、ふるさと納税などを活用して独自の財源確保に努めています。
③ 「行政×市民」の実質的な協働
行政だけでは手の回らない、仔猫への授乳や人馴れ訓練において、ボランティアとの連携が不可欠であることが強調されています。
- 札幌市: 「保護ボランティア」や「動物愛護ボランティア」といった登録制度を整備し、ケアや教育活動を市民と分担しています。
- 盛岡市: 行政施設が老朽化している一方、NPO法人と連携し「預かりボランティア」への物資・医療費支援を行うことで、ハード面の弱さをソフト面の連携でカバーしています。
多頭飼育崩壊と福祉との連携
論文の後半では、新たな課題として「多頭飼育崩壊」への対応が論じられています。多頭飼育崩壊は、飼い主の社会的孤立や経済的困窮、高齢化と密接に関わっており、単なる動物問題ではなく「福祉問題」としての側面が強くなっています。
著者は、環境省のガイドラインにも触れつつ、動物愛護部局と社会福祉部局の連携が必要不可欠であると提言しています。また、障害者グループホームでの保護猫飼育や、高齢者による預かりボランティアなど、「動物福祉」と「人間の福祉」を統合したアプローチの可能性にも言及しています。
社会全体で支える仕組みへ
殺処分減少には「施設の開放」「資金の確保」「市民との協働」の3セットが不可欠であると結論づけています。特に、行政の力だけでは限界がある中、企業による支援(Amazonやガソリンスタンド等)やクラウドファンディングの活用など、多様な主体を巻き込んだ活動の重要性が示唆されています。
単に「かわいそうだから助ける」という段階を超え、地域社会のシステムとしてどう保護猫活動を組み込んでいくか。本論文は、その具体的な道筋を示した実践的な研究と言えるでしょう。
参考文献:行政-市民協働に基づく保護猫譲渡促進 ―先進地域での取り組みを中心とした事例分析―
執筆:equallLIFE編集部






































