なぜ「猫の島」はあるのに「犬の島」はないの?日本犬観光の真実と2大聖地

日本には「猫の島」と呼ばれる観光地がたくさんあります。しかし、犬好きなら一度は疑問に思ったことがあるのではないでしょうか。「なぜ、犬の島はないのか?」本記事では、日本の動物観光の現状と、犬の観光地が少ない理由、そして「日本犬」をテーマに熱心な取り組みを行う2つの自治体の事例を紹介します。

  • 日本国内の動物観光地101件の内訳データ
  • 犬の「放し飼い観光地」が存在しない法的な理由
  • 世界的人気の「秋田犬」と地域ぐるみの「柴犬」の観光戦略の違い

なぜ「犬の観光地」は少ないのか?データと理由

まずは、日本国内の動物に関連した観光地の実態を見てみましょう。論文における調査結果は非常に興味深いものでした。

国内101件の動物観光スポットの内訳

論文の著者がインターネット調査をもとに収集した日本全国101件の事例によると、動物種別の内訳は以下のようになっています。

  • 猫:44件(圧倒的多数)
  • 犬:18件
  • 牛:10件
  • ウサギ:8件
  • その他(ヤギ、猿、馬など):少数

ここで注目すべきは、「島」の観光地です。動物に関連する「島」の観光地は全国に34件あり、そのうち猫の島は22件を占めます。一方で、犬の観光地数は2番目に多いにもかかわらず、「犬の島」は1つも存在しませんでした。

犬の「放し飼い」ができない決定的理由

なぜ、猫のように島で自由に暮らす犬の観光地は生まれないのでしょうか。論文では、その主な要因として以下の2点を挙げています。

犬という種の性質と危険性

犬は狼を祖先とし、人間に躾けられていない野犬の状態では、集団で人を襲うなどの危険性があります。また、大型犬になれば子供よりも大きく、じゃれつきが恐怖を与える場合もあります。そのため、動物愛護法などの法律で猫よりも厳しく規制されています。

狂犬病予防法による規制

日本では「狂犬病予防法」により、犬の登録、予防注射、野犬の抑留が義務付けられています。かつて狂犬病により多くの犠牲が出た歴史から、日本国内で狂犬病が発生していない現在でも、万一の侵入に備えて厳重な管理が求められているのです。

つまり、猫の島のような「不特定多数の動物が放し飼いされている」という有名観光地のスタイルが、犬では法的に成立しないことが、犬の観光地が少ないと感じる最大の要因です。

成功事例1:秋田県大館市「秋田犬(あきたいぬ)」

放し飼いができない制約の中で、どのように犬の観光振興を行えばよいのでしょうか。論文では、世界的な知名度を誇る「秋田犬」を活用した秋田県大館市の事例が詳しく分析されています。

忠犬ハチ公と「秋田犬の里」

大館市は忠犬ハチ公の故郷です。2019年、JR大館駅前に観光交流施設「秋田犬の里」がオープンしました。この施設はハチ公が主人を待ち続けた大正時代の渋谷駅をモデルに建てられています。

ここでの最大の特徴は「秋田犬展示室」です。以下の工夫を凝らしながら運営されています。

  • ガラス越しでの見学:観光客は展示室には入らず、ガラス越しに見学することで犬へのストレスと危険を回避しています。
  • 交代制のシフト勤務:秋田犬保存会の会員が保有する約40頭が登録され、無理のないシフトで展示されています。
  • 飼い主への報酬システム:飼い主には報酬が支払われ、これが秋田犬の飼育費用の補助や、引退後の犬の保護にもつながる仕組みを目指しています。

インバウンド戦略とDMO「秋田犬ツーリズム」

大館市を中心とした地域連携DMO「秋田犬ツーリズム」は、海外マーケティングに成功しています。

  • 検索キーワード分析:海外では「Akita Inu」の検索数が「Mt. Fuji」の約2倍になる時期もありました。
  • ターゲット設定:台湾、香港、シンガポールなどをターゲットに、秋田犬を「アイドル」に見立てた動画プロモーションなどで大きな反響を得ました。

犬を「触れ合わせる」ことの難しさを、施設の工夫やデジタルマーケティングで補い、世界中から観光客を呼ぶことに成功している事例と言えます。

成功事例2:島根県益田市「柴犬(しばいぬ)」

もう一つの事例は、日本犬の中で最も飼育頭数が多く人気の「柴犬」です。実は、現在の柴犬のルーツが島根県にあることをご存じでしょうか。

柴犬のルーツ「石号(いしごう)」の物語

論文によると、昭和初期、洋犬との交雑が進み日本犬は絶滅の危機にありました。そんな中、島根県の山間部(現在の益田市美都町二川地区)で発見された1頭の雄犬「石号」が、柴犬の種の保存に大きく貢献しました。

現在、世界中にいる柴犬の多くが、この「石号」の血を引いていると言われています。

地域住民による手作りの「石号の里」

大館市のような大規模な施設とは異なり、益田市二川地区では、地元住民や民間企業が主体となった「身の丈に合った」活動が行われています。

  • 石号記念館:空き家となっていた石号の生家を改修し、資料を展示。
  • 石像の建立:公民館長の一言がきっかけで、実物大の石号の石像が作られました。
  • オリジナルグッズ:地元の道の駅や温泉施設で、石号の焼酎やキーホルダーなどが販売されています。

この取り組みにより、派手さはないものの、ペット連れの観光客が徐々に増え、地域の認知度向上につながっています。

日本犬観光の未来

今回紹介した論文の分析から、犬の観光振興における重要なポイントが見えてきました。

  • 法的制約の理解:犬は猫のように「放し飼い」で観光地化することは、法律や安全性の面で不可能です。
  • ストーリーの重要性:秋田犬の「ハチ公」や、柴犬の「石号」のように、その土地ならではの歴史や物語が観光の核となります。
  • 規模に応じた戦略:世界的な知名度を活かす大館市(秋田犬)と、ルーツというニッチな歴史を地元愛で育てる益田市(柴犬)。それぞれの地域に合ったやり方があります。

愛犬家の皆さんも、次の旅行では「日本犬の聖地」を訪れて、その深い歴史と地域の方々の熱意に触れてみてはいかがでしょうか。

 

参考文献:動物による観光振興 一日本犬の事例から一

執筆:equallLIFE編集部

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