「うちの猫、私のことをお母さんだと思っているのかな?」
愛猫が甘えてくるとき、ふとそう感じることはありませんか。
実はその直感、科学的にもあながち間違いではないかもしれません。
今回は、論文「ネコに育てられるネコ、ヒトに育てられるネコ」をもとに、猫が人間に対して抱いている感情や、不可解な行動の理由を科学的な視点で解説します。最新の動物心理学が明かす、猫と人の不思議な関係性について見ていきましょう。
目次
ヒトと猫は「異種の親子関係」にある
結論から言うと、イエネコは飼い主に対して、子猫が母猫に見せるような行動を大人になっても続けています。
論文では、猫とヒトは生物学的には全く別の種でありながら、一種の「親子関係」にあるとみなすことができると述べています。
なぜ大人の猫が子猫のような振る舞いをするのか
本来、野生のリビアヤマネコ(イエネコの祖先)は単独で生活する動物です。しかし、人間と暮らすイエネコは、食事の世話を人間に依存しています。
この「世話をされる」という環境が、子猫から親猫への依存関係と似ているため、成猫になっても精神的に自立せず、子猫特有の甘え行動を持続させていると考えられます。これを「ネオテニー(幼形成熟)」と呼びます。
猫が飼い主に見せる「母子間コミュニケーション」の正体
猫が日常的に私たちに見せる行動の多くは、実は本来「母子間」でしか行われないコミュニケーションです。それぞれが持つ意味を紐解いてみましょう。
「ニャー」は人間を操るために進化した特別な声
要点:成猫同士は「ニャー」と鳴き交わしません。これは対人間専用のコミュニケーションツールです。
詳細:野生の猫やノラ猫同士のコミュニケーションにおいて、大人の猫が「ニャー(Meow)」と鳴くことはめったにありません。これは主に子猫が母猫を呼ぶ時に使う声です。
研究によると、家猫の「ニャー」は、ノラ猫に比べて音の高さ(ピッチ)が高く、人間にとって聞き心地が良い、あるいは無視できない音に変化していることがわかっています。
つまり、猫は「こう鳴けば人間が世話をしてくれる」と学習し、自分の要求を通すために人間用の鳴き声を「開発」したと言えるのです。
ゴロゴロ音に隠された「要求」
猫が喉を鳴らす「ゴロゴロ」も、本来は母子間で安心感を伝え合うサインです。しかし、飼い主に対して食事をねだる時のゴロゴロ音には、人間の赤ちゃんの泣き声に似た高周波が含まれていることがわかっています。
猫はただ甘えているだけでなく、飼い主の「守ってあげたい」という本能を巧みに刺激している可能性があります。
ふみふみ・スリスリは「子猫気分」のあらわれ
要点:毛布や飼い主のお腹を揉む行動は、授乳期の記憶に基づくものです。
詳細:前足で交互に何かを踏むような動作(ふみふみ)は、子猫が母猫の母乳の出をよくするために乳房を押す行動の名残です。大人になってもこの行動をする猫は、飼い主や柔らかいクッションを母猫に見立てて、安心感を得ています。
また、体をこすりつける(スリスリ)行動も、母子間や仲間同士で行われる親和的な挨拶です。自分の匂いを飼い主につけることで「自分の所有物(仲間)」であることを確認し、安心しているのです。
しっぽを立てる・まばたきは親愛のサイン
要点:しっぽを垂直に立てて近づくのは、最大級の友好の証です。
詳細:子猫は母猫にお尻を舐めてもらう(排泄介助)ために、しっぽを立てて近づきます。成猫が飼い主に対してしっぽをピンと立てて寄ってくるのは、この行動の名残であり、「あなたに対して敵意はありません、甘えたいです」という強いメッセージです。
また、ゆっくりとした「まばたき」も信頼の証です。人間がゆっくりまばたきを返すと、猫もまばたきを返すことが実験で確認されており、これは「猫のキス」とも呼ばれる愛情表現の一つです。
意外な事実!オス猫も子育てに参加する?
一般的に猫の子育ては母猫のワンオペ(単独、または姉妹猫との共同保育)であり、オス猫は関与しないと思われてきました。
しかし、福岡県の相島(あいのしま)で行われた観察研究で、驚くべき事実が判明しました。
オス猫が自分の子を守る行動
特定のオス猫が、子育て中の巣の近くに留まり、他のオス猫を追い払う行動が確認されました。
DNA解析の結果、その巣にいる子猫の多くは、そのオス猫の子どもでした。
ネコ科動物には、オスが自分の子孫を残すために他人の子猫を殺してしまう「子殺し」という習性があることが知られていますが、父猫は我が子をこの危険から守っている(防衛している)可能性が示唆されたのです。
「猫の父親は子育てしない」という定説は、今後覆るかもしれません。
猫と人間の子供の相性は?「守る」行動は本当にあるか
SNSなどで「猫が人間の赤ちゃんを守っている」ような動画を見かけることがありますが、科学的な見解はどうなのでしょうか。
基本的には大人の人間を好む
残念ながら、研究データによると猫と人間の子供(特に幼児)の関係性は、大人との関係に比べて良好ではないことが多いです。
子供は予測不能な動きや大きな声を出すため、猫にとっては脅威やストレスになりやすいからです。
「守る」というよりは「獲物のおすそ分け」?
猫が飼い主に狩った獲物(虫やおもちゃなど)を持ってくる行動があります。これには2つの説があります。
- 母猫が子猫に狩りを教える行動を、飼い主(猫から見れば狩りが下手な大きな猫)に対して行っている説
- 単に後で食べるために安全な場所に運んできた説
もし前者の場合、猫は飼い主を「守る対象」や「教育が必要な未熟な存在」として見ている可能性もありますが、人間の子供に対して母性行動をとるという確実な証拠はまだ少ないのが現状です。
ただし、猫は社会性が柔軟な動物です。幼少期から子供と一緒に育った場合や、単頭飼育で飼い主との絆が深い場合は、家族として寛容な態度を示すことも十分にあり得ます。
猫にとって飼い主は「安心できる母」であり「利用すべきパートナー」
今回の論文レビューから見えてきたのは、猫の高い適応能力と、人間に対する複雑な感情です。
- 猫は飼い主を生物学的な親とは区別していますが、心理的には「母親代わり」として甘えています。
- 「ニャー」という声を使い分け、人間をコントロールする賢さを持っています。
- オス猫にも父性が芽生える可能性があり、猫の社会性は私たちが思うより複雑です。
猫があなたに「ふみふみ」したり、高い声で鳴いたりするのは、あなたを「絶対的に安心できる存在」として信頼している証拠です。
「大きな猫」と思われているとしても、それは最大の褒め言葉。科学的な背景を知ることで、愛猫の行動がより愛おしく感じられるのではないでしょうか。
参考文献:ネコに育てられるネコ、ヒトに育てられるネコ一同種および異種間の“母子”間コミュニケーションについて
執筆:equallLIFE編集部





































