愛犬にお留守番させる時、もう1匹いれば安心?実は逆効果かもしれない科学的理由

愛犬が留守番中に寂しがらないよう、もう1匹犬を迎えて多頭飼いを検討する。これは犬好きの飼い主様の間ではよくある会話です。人間と同じように、犬も仲間がいれば安心するはずだと考えるのは自然なことでしょう。

しかし、イタリアのピサ大学の研究チームが発表した論文によると、実は同居犬と離れることの方が、飼い主と離れること以上に犬に強いストレスを与えている可能性があることが分かりました。

今回は、2018年に発表された論文「Ainsworth Strange Situation Testにおける、飼い主および同居犬からの分離時の犬の行動」をもとに、多頭飼いにおける犬同士の絆と分離不安の意外な関係について解説します。

「もう1匹迎えれば留守番も安心」という定説に一石を投じるこの研究結果は、現在多頭飼いをしている方や、これから2頭目を検討している方にとって非常に重要な知見となるはずです。

多頭飼いなら寂しくないは間違い?同居犬との別れが飼い主不在より強いストレスになる可能性

飼い主と犬、どちらがいなくなると辛いのか

この研究は、犬が「飼い主」と離れた時と、「同居している仲間の犬」と離れた時で、どちらがより強いストレス反応を示すかを比較したものです。

実験には、一般家庭で飼われている16頭の成犬(オス7頭、メス9頭、平均年齢約4歳)が参加しました。すべての犬は、飼い主および同居犬と9ヶ月以上一緒に暮らしており、見知らぬ場所や人に対して過度な恐怖や攻撃性を持たない犬たちが選ばれました。

実験では、人間の幼児の愛着関係を測定するために開発され、犬の研究でも広く使われているエインズワースのストレンジ・シチュエーション・テスト(ASST)という手法が用いられました。不慣れな部屋の中で、以下のような状況を作り出し、犬の行動をビデオで記録・分析しました。

  1. 飼い主だけが部屋から出ていく
  2. 同居犬だけが部屋から出ていく
  3. 犬が完全に一人きりになる

これらの状況下で、犬がドアの近くに留まる時間、吠える回数、探索行動、受動的な行動(じっとしている等)などが詳細に計測されました。

驚きの実験結果:同居犬がいなくなる方が「抗議」が激しい

実験の結果、多くの飼い主様の予想を裏切るデータが得られました。犬たちは飼い主と離れた時よりも、同居犬と引き離された時の方が、より激しい分離ストレスのサインを見せたのです。

具体的な行動の違いは以下の通りです。

  • ドア付近への滞在時間
    飼い主不在時よりも、同居犬不在時の方が、部屋のドアの近く(出口付近)に留まる時間が統計的に長くなりました。これは、去っていった相手を追いかけようとする、あるいは戻ってくるのを待つ行動と解釈されます。
  • ドアに対する行動と脱出の試み
    ドアを引っ掻く、鼻を押し付けるといった行動や、部屋から逃げ出そうとする行動も、同居犬がいなくなった時の方が顕著に見られました。
  • 吠える行動
    飼い主がいなくなった時、犬たちはほとんど吠えませんでしたが、同居犬がいなくなった時には吠える行動が明確に観察されました。
  • 受動的な行動の違い
    一方で、ただ座り込んだり寝そべったりする受動的な行動は、飼い主がいなくなった時の方が多く見られました。

この結果から、犬は同居犬がいなくなると、明確な抗議行動(吠える、探す、逃げようとする)を起こし、飼い主がいなくなると、どちらかというと静かに落ち込むような反応を示す傾向があることが分かります。

なぜ同居犬との別れがこれほど辛いのか

なぜ犬にとって、神のような存在であるはずの飼い主との別れよりも、同居犬との別れの方が激しい反応を引き起こしたのでしょうか。論文ではいくつかの可能性が考察されています。

  • ストレスの加算効果
    実験の設定上、同居犬と離れる場面は、すでに飼い主がいない状況で行われることがありました。つまり、飼い主がいないという不安な状態に加えて、頼みの綱である同居犬までいなくなってしまったことで、ストレスが限界を超え、激しい抗議行動に繋がった可能性があります。
  • 一人の時間の欠如
    多頭飼いの犬は、常に他の犬と一緒にいるため、完全に一頭だけで過ごす経験が圧倒的に不足しています。単頭飼いの犬なら飼い主の外出時に一人の時間に慣れていきますが、多頭飼いの犬は一匹になる耐性がついていないため、パニックを起こしやすいと考えられます。
  • 同種への愛着
    もちろん、犬同士の間に非常に強い愛着関係(絆)が存在することも大きな理由です。犬は社会的な動物であり、同じ種族である仲間に対して、人間とはまた違った種類の安心感を抱いている可能性があります。

飼い主が知っておくべき対策と注意点

この研究結果は、多頭飼いが悪いという意味ではありません。しかし、2頭いれば留守番は平気だと安易に考えるのは危険であることを示唆しています。特に日本の住宅事情では、同居犬がいなくなった際の吠え行動は近隣トラブルにも繋がりかねません。

以下の点に注意して、日々の生活を見直してみましょう。

  • 1頭ずつ過ごす練習をする
    常に2頭セットで行動させるのではなく、意識的に1頭ずつ別の部屋で過ごさせたり、別々に散歩に行ったりする時間を作りましょう。1頭になっても落ち着いていられる自立心を養うことが、結果として犬の心の安定に繋がります。
  • 個別のトレーニングを行う
    同居犬に依存している場合、相棒がいないと何もできない犬になってしまうリスクがあります。飼い主と1対1の関係を強化し、飼い主が安全基地(心の拠り所)であることを再認識させるトレーニングが有効です。
  • 同居犬の入院や別れに備える
    もし同居犬が入院したり、先に亡くなってしまったりした場合、残された犬には想像以上の負荷がかかります。ペットロスによる分離不安を防ぐためにも、日頃から適度な距離感を保てるようにサポートすることが重要です。

多頭飼いこそ「個」のケアを大切に

今回の要点は以下の通りです。

  • 同居犬と離れることは、飼い主と離れること以上に、吠えやドアへの執着といった激しいストレス反応を引き起こす可能性がある。
  • その原因として、飼い主不在のストレスへの加算効果や、単独での孤独に慣れていない環境要因が考えられる。
  • 多頭飼いであっても、1頭で過ごす練習を取り入れ、犬同士の過度な依存を防ぐことが、犬の精神的な健康(ウェルビーイング)に繋がる。

仲間がいることは素晴らしいことですが、それだけで留守番の寂しさが解決するわけではありません。それぞれの犬が自立し、飼い主様とも個別に強い絆を結ぶことこそが、本当の意味での安心できる暮らしと言えるでしょう。

 

参考文献:Chiara Mariti, Beatrice Carlone, Claudio Sighieri, Marco Campera, Angelo Gazzano, 2018, Dog behavior in the Ainsworth Strange Situation Test during separation from the owner and from the cohabitant dog

執筆:equall編集部

 









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